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テキサス・ナイトランナーズ

ノワール
ISBN:4167527979ジョー・R・ランズデール/文春文庫

 黒い表紙。カタカナだけの題字。舌をだらりと垂らした犬の写真。狂犬のイメージが意識をよぎる。凶々しさを和らげているのは、皮肉なことに、この本のヤバさを煽りたてる帯の文句だ。馳星周の熱狂的な言葉の上には「パルプ・ノワール」の文字が踊る。

 「ノワール」というとらえどころのない、しかし一部の人々の心を惹きつけることは間違いないラベル。もっとも、少し違うラベルも似合うかもしれない。「スプラッタパンク」。悪趣味なまでに血と暴力衝動をまき散らすホラーを指して、その作者たちが与えた名前だ。この小説も、その一群に属している。

 もっとも、ラベルなんてどうでもいい。ランズデールの作品に、作者の名前以外のラベルは必要ない。

 ストーリーはいたって単純だ。大学教授とその妻がいる。妻は自分をレイプした不良少年たちを警察に通報した。少年のひとりは留置場で自殺した。生き残った少年は、復讐と称して夫婦を狙う。それだけだ。

 人間の暴力衝動が物語の中核に据えられている。一方の主人公である大学教授は非暴力主義を貫こうとする。幼いころの回想場面では、彼の周囲にあった暴力──虫けらを面白半分に殺す子供たち、あるいは彼とその弟をいじめる少年などが描かれる。彼はその中でも非暴力を貫き、兵役を拒否した過去を持つ。

 そしてもちろん、もう一方の主人公である少年たちがいる。他者を「もの」のように扱い、平然と凄惨な暴力を加えることのできる存在。そのひとりは、ある超自然の存在(これ、ランズデールのお気に入りのようで、他の短編にも顔を出している)に憑かれて暴力衝動をほとばしらせる。もっとも、邪悪な超自然現象は物語の脇役でしかない。少年たちの暴力礼賛こそが、この物語のもうひとりの主役だ。

 対立軸は明確だ──リベラリズムと暴力崇拝。インテリと不良少年。非暴力主義を貫いてきた男が、暴力に憑かれた少年たちにどのように対峙するのか。両者が対決するクライマックス目指して、物語はひたすらに走りつづける。

 ところで、非暴力主義の夫、不良たちの性犯罪の被害者となる妻という人物配置に、ランズデールとは別のジョーが書いた小説のことを思い出した。ジョー・ゴアズの「野獣の血」。こちらの主人公も大学教授。不良たちにレイプされた妻が自殺し、彼はその復讐に立ち上がるのだ。この小説がクローズアップしているのは、やはり人間の内なる暴力衝動だ。読み比べてみるのもいいかもしれない。

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