メッセージ欄
2004年3月の日記
▼ マンハッタン狩猟クラブ
【ミステリ】
ジョン・ソール / 文春文庫
都市の地下でひそかに繰り広げられる「人狩り」ゲーム。そこに、標的としてほうり込まれてしまった男の物語。
主人公のジェフは、身に覚えのない殺人で有罪判決を下された青年。投獄の直前に拉致された彼が連れてこられたのは、ニューヨークの地下だった。彼は「ゲーム」に参加させられたことを知る。ジャガーという男とコンビで、彼らを追う完全武装の狩人たちから逃げるのだ。だが、ジェフは知らなかった。相棒のジャガーが、仲間に異常な愛情を抱く猟奇殺人者であることを……。
ニューヨークの地下。下水道や閉鎖された地下鉄のトンネルや駅には、地上とは別のコミュニティが築かれていた--というのは、絵空事ではなさそうだ。ニューヨークの地下生活者を扱った『モグラびと』というノンフィクションもある。
都会の地下は人跡未踏の大洞窟ではない。地下のコミュニティは地上のそれとは別物だが、隔絶されているわけでもない。すぐそこにある異世界なのだ。
あなたの足元に、あなたの思いもよらない世界が広がっている。そんな「不可視の領域」に関する空想は、何者かがこの社会を裏からコントロールしている--という陰謀論とも相性がいい。こちらは「不可視」というより「吹かし」であることが多いのだが。
そう。これはすぐれた地底小説であるだけでなく、陰謀小説でもある。ゲームを仕掛けた黒幕の素性をみるがいい。その名前も、陰謀論の世界ではおなじみ、ジョン・コールマンの著作に登場する組織名をヒントにしているようだ。
異様な世界での人狩りゲームを、さらに異様なものにしているのが「相棒」のジャガー。ジェフにとっては謎めいた仲間、しかし実は猟奇殺人者。狩人から逃げ惑う過程で、ジャガーは徐々に牙を剥く。追跡劇のスリルに殺人鬼のサスペンスが重なり合い、緊張はクライマックスまで途切れることがない。
ジョン・ソールといえば、子供がひどい目に会う陰鬱なホラーの書き手として知られている。こんなスピーディなスリラーを発表するのは少々意外ではあるが、まあ20年も子供いじめてきたんだから、そろそろ違うことをやりたくなるのも無理はない。
都市の地下でひそかに繰り広げられる「人狩り」ゲーム。そこに、標的としてほうり込まれてしまった男の物語。
主人公のジェフは、身に覚えのない殺人で有罪判決を下された青年。投獄の直前に拉致された彼が連れてこられたのは、ニューヨークの地下だった。彼は「ゲーム」に参加させられたことを知る。ジャガーという男とコンビで、彼らを追う完全武装の狩人たちから逃げるのだ。だが、ジェフは知らなかった。相棒のジャガーが、仲間に異常な愛情を抱く猟奇殺人者であることを……。
ニューヨークの地下。下水道や閉鎖された地下鉄のトンネルや駅には、地上とは別のコミュニティが築かれていた--というのは、絵空事ではなさそうだ。ニューヨークの地下生活者を扱った『モグラびと』というノンフィクションもある。
都会の地下は人跡未踏の大洞窟ではない。地下のコミュニティは地上のそれとは別物だが、隔絶されているわけでもない。すぐそこにある異世界なのだ。
あなたの足元に、あなたの思いもよらない世界が広がっている。そんな「不可視の領域」に関する空想は、何者かがこの社会を裏からコントロールしている--という陰謀論とも相性がいい。こちらは「不可視」というより「吹かし」であることが多いのだが。
そう。これはすぐれた地底小説であるだけでなく、陰謀小説でもある。ゲームを仕掛けた黒幕の素性をみるがいい。その名前も、陰謀論の世界ではおなじみ、ジョン・コールマンの著作に登場する組織名をヒントにしているようだ。
異様な世界での人狩りゲームを、さらに異様なものにしているのが「相棒」のジャガー。ジェフにとっては謎めいた仲間、しかし実は猟奇殺人者。狩人から逃げ惑う過程で、ジャガーは徐々に牙を剥く。追跡劇のスリルに殺人鬼のサスペンスが重なり合い、緊張はクライマックスまで途切れることがない。
ジョン・ソールといえば、子供がひどい目に会う陰鬱なホラーの書き手として知られている。こんなスピーディなスリラーを発表するのは少々意外ではあるが、まあ20年も子供いじめてきたんだから、そろそろ違うことをやりたくなるのも無理はない。
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▼ 木曜日に生まれた子ども
【小説】
ソーニャ・ハートネット / 河出書房新社
穴を掘る才能に恵まれ、地中で暮らすことを選んだ少年ティンと、その家族の物語。
時は第一次大戦後、舞台はオーストラリアの荒野。語り手の少女ハーパーには、ティンという奇妙な弟がいる。彼は幼いころから穴を掘るのが大好きだった。やがてティンはトンネルを作り、地中で暮らすようになり、地上の家族の前にもほとんど姿を見せなくなる。
おりしも大恐慌。一家には次々と災難が降りかかる。その折々に、ティンが地底から姿を見せる。救いになることもあれば、トラブルになることも。彼は徐々に、いける伝説のようなものになってゆく……。
風変わりな地底小説である。家族の中でただひとり「遠く」に行ってしまったティンは、遠くて近い他者。長大なトンネルを掘るその姿は次第に怪物めいたものになってくるけれど、それでも彼を家族として認めるハーパーたちの姿勢がいい。
過酷にして叙情的な物語だ。大恐慌が家族を疲弊させる様子が生々しく描かれる一方で、ティンの出現する場面はどこか幻想めいたものを感じさせる。クライマックスの荒々しい情景には、生々しさと幻想とが溶け合った奇妙な感動がある。
題名はマザーグースの一節、"Thursday's child has far to go"に由来しているとのこと。Pendragonの"The Voyager"という曲を思い出した。詞はマザーグースとは少し違っているけれど、やはり「木曜日の子どもは遠くへ旅に出る」という一節があるからだ。
ところでほかの曜日はどうなっているんだろう、と調べてみたらこんなサイトを見つけた。
http://www1.odn.ne.jp/~cci32280/pbMotherGoose.htm
ちなみに私は金曜日生まれ──愛情豊かなのだそうな。愛情豊か、ねえ。
穴を掘る才能に恵まれ、地中で暮らすことを選んだ少年ティンと、その家族の物語。
時は第一次大戦後、舞台はオーストラリアの荒野。語り手の少女ハーパーには、ティンという奇妙な弟がいる。彼は幼いころから穴を掘るのが大好きだった。やがてティンはトンネルを作り、地中で暮らすようになり、地上の家族の前にもほとんど姿を見せなくなる。
おりしも大恐慌。一家には次々と災難が降りかかる。その折々に、ティンが地底から姿を見せる。救いになることもあれば、トラブルになることも。彼は徐々に、いける伝説のようなものになってゆく……。
風変わりな地底小説である。家族の中でただひとり「遠く」に行ってしまったティンは、遠くて近い他者。長大なトンネルを掘るその姿は次第に怪物めいたものになってくるけれど、それでも彼を家族として認めるハーパーたちの姿勢がいい。
過酷にして叙情的な物語だ。大恐慌が家族を疲弊させる様子が生々しく描かれる一方で、ティンの出現する場面はどこか幻想めいたものを感じさせる。クライマックスの荒々しい情景には、生々しさと幻想とが溶け合った奇妙な感動がある。
題名はマザーグースの一節、"Thursday's child has far to go"に由来しているとのこと。Pendragonの"The Voyager"という曲を思い出した。詞はマザーグースとは少し違っているけれど、やはり「木曜日の子どもは遠くへ旅に出る」という一節があるからだ。
ところでほかの曜日はどうなっているんだろう、と調べてみたらこんなサイトを見つけた。
http://www1.odn.ne.jp/~cci32280/pbMotherGoose.htm
ちなみに私は金曜日生まれ──愛情豊かなのだそうな。愛情豊か、ねえ。
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▼ 2004/03/08(月)
【日常】
■最終回
ミステリマガジンの書評と、産経新聞で2年ほど続いていた「ミステリー千夜一夜」の最後の回の原稿を送付。
産経新聞のほうはこんな形式だ。
3人のレビュアーが、毎回3つの作品を取り上げる。どの作品にするかを決めるのは、3人が毎月回り持ちで担当する。選んだ人は400字弱で3冊について書き、あとの2人は28字×3冊分のコメントを書く。
一見すると楽そうだが、一つの作品を28字で、というのはなかなかに難しいものがあった。なんだか俳句や短歌みたいなものである。
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▼ 2004/03/01(月)
【日常】
■地底
マーク・サリヴァン『地底迷宮』はエンターテインメントに徹していて非常に楽しめた。
舞台の大半は地底。以前「英国地底魂」なんて文章を書いたこともあるけれど、地底を舞台にした小説というのは面白いものが多い。地底というものが人の想像力をなにかと刺激してしまうことは、『帝都東京・隠された地下網の秘密』ISBN:4896916808なんて本からもうかがえる。
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