メッセージ欄
▼ 生首に聞いてみろ
法月警視は種々の奇抜な首切り手段を編み出して、殺し屋に伝授していた。そのことを知った綸太郎は、自らの家の血塗られた秘密に苦悩する……という話ではない。それでは別の話になってしまう。
病死した彫刻家が死の直前に創りあげた、娘をモデルにした石膏像。その首だけが何者かに切り取られ、持ち去られる。彫刻家の遺族に相談を持ちかけられた綸太郎は、調査のためにアトリエを訪ねる……という幕開け。
無駄のないシンプルな物語でありながら、中盤以降、事件をめぐる状況は二転三転する。作中のほぼすべての出来事が謎解きに奉仕している、贅肉をそぎ落としたような作品だ。
事件のモチーフはロス・マクドナルド風。そのへんは過去の作品と同じなのだけれど、テーマを作品に埋め込む手際は、過去に比べはるかに巧みになっている。
特に鮮烈なのが、第五部に描かれるある人物との会見シーン。ある人物の奇異な振る舞いは、ロス・マクドナルド作品のラストシーンのようなグロテスクさを備えている。そして最後まで読み終えることによって、そのゆがんだ印象はよりいっそう強化される。それは『頼子のために』に描かれた母親像の観念的な異様さとは別種の、きわめて生々しい異様さだ。
終盤の 犯人指摘→綸太郎による真相説明→エピローグ という流れは、幾分ぎくしゃくしているように感じた。特に真相説明のくだりは、ほんとうに「単なる説明」だけに徹している。謎解きそれ自体が読者を引っ張る力を備えているとはいえ、もうちょっと凝った演出があってもいいのではないか。もっとも、エピローグでは巧みにロス・マクドナルドのある作品の仕掛けを本歌取りしてみせていたので、少々の不満は吹き飛んでしまったのだが。
作者の計算通りにきっちりと構築されている、という印象を残す端正な作品。
端正な話もいいけれど、時には『誰彼』 『ふたたび赤い悪夢』のような勢い余って暴走してしまった作品も読んでみたい……というのは欲張りだろうか。そもそも長編の発表自体ずいぶん久しぶりだからなあ……。
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▼ 2004/09/29(水)
■『これだけは知っておきたい名作時代小説100』
見本が届いた。……実際に届いたのは先週なのだが。
題名通り、時代小説100作品を紹介している本だ。4作品の紹介を書いた。
4作中3作が伝奇もの……。
本屋で見かけたら手に取っていただけると幸いです。
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▼ 2004/09/23(木)
■地底その後
09/22のつづき。
私の通った大学の地下にも、トンネルが走っていたのだった。
http://www.keio.ac.jp/mamehyakka/89.htm
戦争末期に、海軍の司令部がおかれていたのだ。この地下壕を史跡にしよう、という保存活動も行われている。
http://www.townnews.co.jp/020area_page/01_thu/01_koho/2004_3/07_22/koho_jin.html
「地下壕は悲惨な歴史を後世に伝承していく良い教材です」という保存活動の原動力には敬意を払いつつも、不謹慎な者としては「地底のひみつ基地」というだけで十分保存に値すると思ってしまう。
地底のひみつ基地から次々と理不尽な命令(特攻は理にかなった命令とは言えないだろう)を繰り出す組織。それはもはや一国の海軍というより、特撮番組の悪の秘密結社である。
そんなわけで、ふと思い立って悪の秘密結社運営ゲーム「Evil Genius」のデモ版などダウンロードしてみる。
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20040908/demo0908.htm
こんなことをしている場合ではないのだが。
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▼ 2004/09/22(水)
■地底小説愛好者には興味深いニュース
「パリの地下に秘密社会?」
http://www.nishinippon.co.jp/media/news/news-today/20040921/news009.html
パリの地下にはトンネルが縦横無尽に通っている、という話は有名だ。その起源はローマ時代に遡る。建物を造るために、地底から石を切り出していたのだ。
で、その地下でこっそり映画館やバーを設けて楽しんでる人々がいるらしい。『マンハッタン狩猟クラブ』のような殺伐とした世界ではないようだ。
パリ市警察は電気の不正使用の疑いで、電力会社の職員とともに捜索したが、電線は切られ「われわれを捜すな」という張り紙がしてあった。
という芝居がかった展開がよいですね。ルパンやファントマの地ならでは、である。
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▼ 2004/09/18(土)
■引っ越し業者に見積もりに来てもらう。
やってきた担当者は、混迷を極めた部屋を眺めつつ「じゃあ段ボールは30箱くらいで」てなことを言うので、私は「えっ?」と聞き返してしまった。
というのも、4年前にこの部屋に引っ越してきたときは、たしか本+CDだけで50箱くらいあったのだ。そのときは勤務先の都合による引っ越しで、運送業者の手配も費用も会社任せだった。「ここに必要な段ボールの数を書いて提出するよーに」と渡された紙に、おそらく必要と思われる数を記入して出したところ、総務から電話がかかってきた。
「50箱って書いてあるように見えるんですが」
「うん」
「多すぎませんか?」
「むしろ足りないんじゃないかと心配している」
「本当に50箱手配しちゃいますよ」
「してくれないと困るよ」
思わず聞き返してしまったのは、そんな会話をした記憶があったせいだ。
まあ、足りなきゃ箱を追加してもらえば済むのだが。
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