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2008年1月の日記

永久凍土の400万カラット

冒険小説
永久凍土の400万カラット ロビン・ホワイト / 文春文庫

 シベリアのダイヤ鉱山で何かが起きている。誰かが、ダイヤを不当に横流ししているのだ。ノーヴィクの親友は調査を始めたが、何者かに暗殺されてしまう。その魔手は、やがてFSB(連邦情報局)の捜査官を、そしてノーヴィクをも狙う。いったい、鉱山で何が起きているのか? ノーヴィクは、仲間を連れて、荒野のまっただ中に広がる鉱山町へと乗り込むが……

 エリツィン政権末期のロシアを舞台に、正義感の強い主人公が巨大な腐敗の構図に挑戦する冒険小説。主人公は地方公務員で、義憤とちょっとした機転の他にはこれといった特技があるわけでもない。だが、彼を支える脇役は強力だ。異常に戦闘能力の高い元チェチェン・ゲリラの老人に、航空会社で一財産築いた飛行機乗り。頼れる仲間とともに、ノーヴィクは巨大な陰謀に立ち向かう。

 シベリアの苛酷な気候も印象深いが、それ以上に興味深いのはマフィアが君臨した当時のロシアの混乱ぶり。ソ連崩壊後のモラルの崩れた社会を背景に、きわめて稀な正義感を持ち合わせた男が、単純明快痛快無比の冒険娯楽活劇を繰り広げてみせる。主人公ノーヴィクは義憤に駆られて無鉄砲な行動に出ることの多い男だが、要所ではしたたかな智恵を発揮してみせる。当時のロシアのような混乱をきわめた地域で、腐敗せずにいられるには、それなりの強さと知性が必要だ。
 序盤はあくまでも静かに、水面下の駆け引きを。そして徐々に緊張を高めながら、鉱山で死闘を繰り広げるクライマックスへとなだれこんでいく。

 ちなみに、当時のロシア大統領エリツィンも登場する。我々が想い描く「いかにも」なエリツィンとして。
エリツィンはティーカップをのぞきこむと、大声で言った。「もっとしかるべきものをお出ししろ!」
霜で覆われたボトルが登場し、グラスが皆に回された。
 プーチンは酒は飲まないらしいが、本人が冒険活劇の主役ぐらいは務められそうだ。暴れん坊将軍か。

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  • 狼のゲーム Bookstack 古山裕樹
    ブレント・ゲルフィ (著), 鈴木 恵 (翻訳) 現代ロシアを舞台にした犯罪小説。主人公はチェチェン紛争で片足を失った元軍人、今ではマフィアの一員。幻の名画を奪い合う大物同士の暗闘に巻き込まれ、政治家たちも関わるロシアの暗黒社会で,生きるか死ぬかの闘いを...

M.G.H. 楽園の鏡像

ミステリ
M.G.H. 楽園の鏡像 三雲岳斗 / 徳間デュアル文庫

某原稿のために再読。

時は近未来、舞台は宇宙ステーション。被害者は、どうやって無重力空間で墜落死したのか──という謎を軸に展開される物語。

この手のミステリには珍しく、解決シーンにたどり着く前にトリックが分かってしまった。もっとも、そのせいで評価が下がるなんてことはなく、「それをやりたかったのか!」と嬉しくなってしまった記憶がある。大がかりな舞台装置でありながら、仕掛けは単純そのもの。こういう稚気をみせられると、少々の傷は気にならなくなる。

また、主人公の男女が宇宙ステーションにやってくる経緯(新婚夫婦向けの宇宙ステーション無料招待を手にするためにとりあえず結婚してみた)が、ある種のミスディレクションになっているところも好印象。

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残虐行為記録保管所

陰謀小説
残虐行為記録保管所 チャールズ・ストロス / 早川書房

 アラン・チューリングが開拓した数学的魔術。その禁断の知識がもたらす災厄を阻止すべく、英国政府は密かに情報機関〈ランドリー〉を設立した。本書は、〈ランドリー〉の新米エージェントであるボブ・ハワードが、魔術を操るナチの残党なんぞを相手に奮闘する物語である。
 もっとも、ハワードは新米。ジェイムズ・ボンドみたいなスーパーヒーローではない。組織の末端であり、英国政府のお役所体質やイヤな上司に悩まされながら任務を遂行することになる。
 基盤はレン・デイトンのスパイ小説。そこにクトゥルー神話の要素を取り入れて……となると、どうにも重々しい物語を想像しがちだ。だが、作者はここにもうひとつの要素を付け加えてみせる。
 あろうことか、モンティ・パイソンなのだ。
「〈第三種栄光の手〉、五回の使い切り、汎用の不可視化ではなく鏡面ベースによるコヒーレント放射……」
(中略)
「それをこしらえるためには山西省で死刑を執行しなければならないことは知っているか?」
 ぼくは吐き気を催しながら手をおろす。「指を一本使っただけですよ。それはそうと、業者はオランウータンを使ってたはずです。いったいどうしたんですか?」
 ハリーは肩をすくめる。「悪いのは動物の権利保護団体さ」
また、クトゥルー神話ならではの芸当──本来まったく無関係だったものを勝手に自らの体系に取り入れてしまう様子も堪能できる。
「あれってクヌースじゃない?」(中略)「ちょっと待ってよ──第四巻? だけど、あのシリーズはまだ第三巻までしか完成してないはずじゃないの! 第四巻は、刊行がもう二十年も遅れてるのよ!」
刊行が遅れたのは、第四巻に禁断の知識が記されていたからだそうな。高度に発達した科学は魔法と区別できない、というのはこのことだったのか。

……こんなふうに、あちこちに作者のお遊びが仕掛けられた愉快なスパイ小説である。冷戦時代のスパイ小説を、核兵器による絶滅の恐怖に基づいたホラーとして認識する作者のあとがきも興味深い。クトゥルー神話とエスピオナージュを結びつける発想はよくあるものだけれど、両者の共通点を意識していることを明確にしているのは珍しい。

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2008/01/09(水) 下読み終了

日常
明け方に応募原稿を返送し*1、コメント類をまとめてから出勤。帰ってから見直してメールで送信。

恋人と死別する話・恋人が難病にかかる話は当分読まなくていいや、という気分です。

*1 : コンビニの隣に住んでいると便利


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Uボート113最後の潜航

冒険小説
 Uボート113最後の潜航ジョン・マノック / 村上和久訳 / ヴィレッジブックス

ときは1943年。カリブ海で連合国の輸送船破壊の任務に就いていたUボート113は、米軍の攻撃で損傷を受け、長距離の航行ができない状態になる。かつて近くで撃沈された僚艦の部品を流用しようとする彼らの前には、さまざまな苦難が待ち受けていた……

というわけで、第二次大戦下を背景にした正統派の冒険小説である。
  • この手の話では敵役に回ることが多いドイツ軍人が主人公
  • プロローグは現代。奇妙な遺物の発見から過去に遡る、という構成
という、『鷲は舞い降りた』『北壁の死闘』などと同じ構成をとっている。この枠組みを使うからには高い水準を求めてしまうわけだが、期待を裏切らない出来映えに満足した。そういえば、主人公の名前「クルト・シュトゥルマー」はクルト・シュタイナに響きが似ているが、それはこじつけが過ぎるというものだろうか。

Uボートが出てくる小説と言えば、たいていは『眼下の敵』みたいな連合国艦艇との駆け引きが中心になりがちだが、ここではもっぱら敵地アメリカで密かに潜水艦を修理する……という隠密行動がサスペンスを盛り上げている。

脇役もいい。単なる無能な人間やイヤな奴はほとんど登場せず(約2名くらいか)、それぞれがそれぞれの立場でベストを尽くすことが、物語の盛り上がりに直結している。特に、わずかな手がかりからUボートの存在に迫る英国海軍将校の存在は、警察小説のベテラン刑事を想起させる。

ちなみに、アメリカ沖のUボートを扱った他の作品といえば……
後の2作はホラー。特に最後のはナチスの改造人間が大暴れする、B級感あふれる怪作である。

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