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2008年10月の日記

2008/10/22(水) ジョン・ル・カレ新作

 またまただいぶ間が空いてしまった。

 8月、9月のあたりにジョン・ル・カレのことに言及しているのだが、実はそのル・カレの新刊の解説を書いていた。下準備の一環として旧作を読み返していたところ、ついつい引きずり込まれてしまって抜け出せなくなってしまった。結局、ほぼ全作を読んでいたことになる。

 ル・カレの小説をいろいろ振り返ってみると、どうしてもキム・フィルビーについても触れないわけにはいかない。そんなわけで関連する本を数冊読んで、今やすっかりキムといえばフィルビーである。最近までは朝鮮半島を巡る謀略ものなどを読んでいて、キムといえばジョンイルだったのだが。
 ル・カレ、フィルビーときて、今はイギリス外交史の本などを読んでいたりする。

 読み返していて最も印象深かったル・カレ作品は、1990年の『影の巡礼者』だった。
 英国諜報部の新人教育係が、ジョージ・スマイリーを呼んできて新人たちにありがたい講演をしてもらう話。それだけだとさすがに長編としてもたないので、教育係がスマイリーの話を聞きながら、過去のあんな出来事やこんな出来事を回想する。ル・カレの小説としては「ゆるい」作品ではある。なにしろジョージ・スマイリーというキャラクターに頼って一冊書いちゃったのだから。だが、解説を書く立場で読み返すときわめて興味深い一冊だった。ル・カレがスマイリーを通じて冷戦を総括し、新たな時代にどんなものを書いていくかを語っているのだ。

 その新たな時代が始まって10年ちょっと過ぎた頃に書かれたのが、解説対象の『サラマンダーは炎のなかに』(光文社文庫、11月刊行予定)だ。原題は"Absolute Friends"なのだが、邦題は作中の台詞から。
 ル・カレがはじめて2001年9月11日以降を扱った作品だ。最近のル・カレは、ブッシュ政権の「テロとの戦い」を批判しているが、『サラマンダーは炎のなかに』にもその批判が色濃く表れている。まずは冷戦時代を背景に、英国情報部のために働く小役人と、東ドイツ秘密警察の一員との奇妙な友情が描かれ、そして21世紀に入ってからの二人の再会と、その背後にある企みが語られる。
 初期の作品以来、久しぶりに東ドイツの諜報機関なんてものが登場する。ル・カレの過去と今とが入り交じったような小説だ。

 ちなみに、ル・カレは先月"A Most Wanted Man"という新作を世に送り出したばかり。公式サイトやYouTubeで、作者本人も出てくるトレイラームービーを見ることができる。



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  • 2009-02-24 Bookstack 古山裕樹
    例年だと本業がかなり繁忙状態になっているのだが、今年はややのんびりした状態。もっとも、仕事がなくなるのもまずいので、身も心ものんびりというわけにはいかないのだが。 ただ、本を読む時間を確保しやすくなったというメリットも。数日前にロバート・リテルの『CIA...