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2009年3月の日記

ミレニアム2 火と戯れる女

ミステリ
スティーグ・ラーソン / 早川書房

 送っていただいた見本を読了。
 今回はすぐれた調査能力を持つヒロイン、リスベット・サランデル自身の事件。彼女が殺人事件の容疑者として追われ、しかも事件には彼女自身の過去にまつわる秘密が関わっていた。

 彼女の生い立ちについては前作でもある程度触れられていたが、今回はさらに衝撃の事実が明かされる。本筋と直接関係ないのに妙にたっぷり書き込んでるな……と前作を読んだときに思ったのだが、今回につなげるためだったようだ。そういえば本書でも、意味ありげに提示されながらそのまま回収されなかったエピソードが残っているが、これもやはり次で回収されるのだろうか。
 優等生ジャーナリストのブルムクヴィストと、はみ出し者のサランデル。対照的な二人の主人公だけでなく、捜査に当たる刑事たち、さらには敵役の異様な面々と、登場人物の造形は相変わらず鮮やか。キャラクターが確立されているからこそ、クライマックスの衝撃も効いてくる。

 この作品に描かれる事件の背後には、スウェーデンと外国との関わり方がある。時代は違えどシューヴァル&ヴァールーや、あるいはほぼ同時代のヘニング・マンケルにも似た匂いが漂ってくる。

 おそらくはあのエピソードが回収されるであろう第三部も楽しみ。

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茨文字の魔法

ASIN:448852009X パトリシア・A・マキリップ / 原島文世訳 / 創元推理文庫

 捨て子だったネペンテスは王立図書館で育てられ、今では古代の文字を読み解く日々を過ごしていた。魔術を学ぶ若者から預かった一冊の書物が、彼女を虜にする。茨のような文字で記されていたのは、数千年前に多くの国々を征服した皇帝と魔術師の伝説。だが、書物に記された史実は、世に知られたものとは異なっていた。皇帝が生きていた時代から数百年後に栄えた国々までもが、彼に制覇されたというのだ。
 彼女が書物を読んでいる間にも、幼い女王が即位したばかりの王国では、権力をめぐる不穏なたくらみが渦巻いていた……

 異世界を舞台にした物語。もっとも、登場人物の身の回りについての描写は丁寧だが、より大きなスケールでの記述はかなり曖昧で、世界の姿をイメージしづらい。解説に述べられているように、緻密に異世界を描き出すのではなく、感覚的なイメージを重視する作家のようだ。

 ネペンテスが古文書を解読する話と、その古文書に記された古代のできごと、そして現代を舞台にした幼い女王をめぐる政治的なもつれとが並行して語られる。ばらばらのエピソードが、クライマックスで一転に収束する。こういう構成力は見事。

 その構成を支えているのが、伝えられた歴史と書物に記された歴史との矛盾という謎だ。それがたったひとつの仕掛けによって解決されて、ある構図が浮かび上がる。それまで作中で宙吊りになっていた事柄が伏線となって、浮かび上がった構図を補強する。伏線の回収はなかなか巧みで、「ああ、だから○○が××だったのか!」という、優れたミステリに通じる驚きを味わうことができた。

 登場人物はみんな鮮やかに描かれ、それぞれの関係も丁寧に描かれている。にもかかわらずクライマックスからの急展開があっけなく感じられるのは、やはりこの構図がもたらす驚きこそが最大の見せ場だからだろう。

 これは架空の世界でないと使えない技だよな……と思ったけれど、東洋を舞台に似たような仕掛けを使った例を思いだした。荒山徹のある作品である。無茶だなあ(荒山徹が)。

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2009/03/10(火) 粘膜人間はペントハウスの夢を見るか?

未分類
ASIN:404391301X
昨年の暮れぐらいから、周囲で『粘膜人間』に取り憑かれてしまった人々が増えている。
この本に言語感覚を冒された某氏から届いたメールでは、主立った名詞がほとんど「粘膜」という語に置き換わっていて、なんというかガブラーにガビッシュをガブルガブルされたような文面だった。おおむね意味が通じたのは実に不思議なことである。

私も、昨年暮れのある忘年会で霜月蒼さんから『粘膜人間』がどんな話かを教えられ、その奇異な展開に感銘を受けていたところに「で、ここまでがだいたい20ページ」という衝撃的な一言を聞き、迷わず帰り道に書店に立ち寄り購入し、その夜寝る前と翌朝起きてから2回読んだ次第である。私は堪能したが、念のため述べておくと、さわやかな朝の空気に包まれて読むべき本ではない。

その『粘膜人間』に登場する河童が口にする、独特のオノマトペが忘れがたい。私の周囲でも「グッチョネ」という河童語彙を耳にする機会が増えた*1。「グッチョネ」は河童語彙の代表とも言うべきぐっちょねな響きを帯びた語であるが、これが何を指しているかは各自『粘膜人間』を読んで確かめていただきたい。

で、この「グッチョネ」という言葉、どうもどこかで聞き覚えがある……としばらく気になっていたのだが、ようやく思い出した。ボブ・グッチョーネだ。よりによってボブ・グッチョーネである。名は体を表すとはこのことだろうか。ぐっちょねぐっちょね。

*1 : 杉江松恋氏が連呼している


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