Bookstack/topics - 陰謀小説の選択基準 Diff
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●通常のスパイ小説・謀略ものはなるべく含めない。
例えば『ジャッカルの日』は「仏大統領暗殺計画」という謀略を描いた小説だが、前述したような「陰謀」の持つ胡散臭さは感じられない。「もしかしたら本当にそんなことがあったのかも」という説得力を持つ作品は本全集の対象外である。仮に説得力を備えていたとしても、「まさかそんなこと」と思わせるような怪しさが勝るものを選んだ。
●ホラーなども対象とする。
本全集での「陰謀」とは、擬似科学やオカルトの力を借りるものも含む。ホラー小説ではそうした要素が積極的に扱われ、時には本全集にふさわしい陰謀を生み出すことも珍しくない。
●一作家につき一作だけを収める。
これは陰謀ミステリ50選であり、ラドラム・クーンツ・カッスラー50選ではない。
収録作は、陰謀の主体・動機などに基づいて以下のように分類した。
（なお、作品によっては、どのカテゴリーに属するかを示すことが結末を明かすことにつながりかねないので、一冊一冊についての分類は明示していない。ご容赦いただきたい）
!陰謀的世界観
第１巻『大いなる陰謀』の主人公は「陰謀理論」の学者である。前述したような怪しげな陰謀を真面目に研究し、あげくの果てには自身の身体的なコンプレックスまで陰謀のせいにしてしまう。こんなのはまだのどかなほうで、『黒衣伝説』では語り手の陰謀妄想が読者の脳髄を浸食してしまう。
また、陰謀妄想が[[アメリカ]]社会をおおった時代もあった。敵は共産主義。いわゆる「赤狩り」の時代である。『寂しい夜の出来事』などのマイク・ハマーものに、そういうパラノイアックな反共意識をうかがうことができる。
!陰謀主体としてのアメリカ政府
アメリカ政府というものを懐疑的に描く作品が増えたのはヴェトナム戦争以降だろうか。『ファイアスターター』のような「政府機関の陰謀」は、ドラマ「Ｘ−ファイル」でもおなじみである（本全集には含めなかったが、ディーン・クーンツの作品にも頻繁に見られる）。また、『アメリカン・タブロイド』、続く『アメリカン・デス・トリップ』は、アメリカ現代史をタブロイド紙ばりのいかがわしい陰謀劇として捉えなおす力作。
!陰謀主体としてのナチ残党・ネオナチ
第二次大戦を背景にした幾多の冒険小説で敵役を演じてきたナチ。ユダヤ陰謀論を唱え、疑似科学やオカルトにも耽溺していた彼らは、怪しげな陰謀の主体になる資格を十分に備えた存在だ（イタリアのファシスト党が陰謀を企む小説が何冊あるだろう？）。『ブラジルから来た少年』のような、酒の席の与太話みたいなアイデアをまじめに膨らませた作品こそ、すぐれた[[陰謀小説]]といえよう。
なお、本全集には収めていないが、朝松健『邪神帝国』はナチスのオカルト面を強調した好例である。
!陰謀主体としての日本
現実の国際政治の場においては陰謀の主体になりそうもない日本だが、フィクションの世界では違う。太平洋戦争時の日本軍はオカルティックな秘密兵器を繰り出し、現代の日本企業は（なぜか）ニンジャやサムライを暗躍させて世界経済の支配を狙うのだ。
!経済的動機に基づく陰謀
企業が利益を守るため犯罪行為に手を出す……ってのは現実にも珍しくないが、テロや殺人にまで手を出したりするのがこのカテゴリーに入る。
!思想・政治的信念に基づく陰謀
世界を変えようという遠大な野望を持つ秘密の組織。そして野望を実現するための奇想天外な手段と並外れた努力。……世界征服を狙う秘密結社は、地道な努力の大切さを知っている。フィクションの世界の陰謀集団の真摯さには、現実の政党など足元にも及ばない。
!信仰に基づく陰謀
ミステリよりもホラーに多くみられる。かつてカルト宗教のテロ活動が日本を騒がせたが、この手の小説では本当に超自然的な力を駆使してしまうから大変である。『アーカム計画』の救いのなさにはただ戦慄。
!陰謀史観とミステリ
最終巻を飾るのは『九マイルは遠すぎる』。陰謀そのものを描いている作品ではないが、「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。ましてや雨の中となるとなおさらだ」という一文から予想外の事実を導き出す過程は、1ドル札のデザインからフリーメーソンの世界支配の野望を読み取る行為にも似ている。陰謀史観とミステリ。世界に対して過剰なまでの解釈を試みるという点で、この二つの分野は交わっているのかもしれない。
例えば『ジャッカルの日』は「仏大統領暗殺計画」という謀略を描いた小説だが、前述したような「陰謀」の持つ胡散臭さは感じられない。「もしかしたら本当にそんなことがあったのかも」という説得力を持つ作品は本全集の対象外である。仮に説得力を備えていたとしても、「まさかそんなこと」と思わせるような怪しさが勝るものを選んだ。
●ホラーなども対象とする。
本全集での「陰謀」とは、擬似科学やオカルトの力を借りるものも含む。ホラー小説ではそうした要素が積極的に扱われ、時には本全集にふさわしい陰謀を生み出すことも珍しくない。
●一作家につき一作だけを収める。
これは陰謀ミステリ50選であり、ラドラム・クーンツ・カッスラー50選ではない。
収録作は、陰謀の主体・動機などに基づいて以下のように分類した。
（なお、作品によっては、どのカテゴリーに属するかを示すことが結末を明かすことにつながりかねないので、一冊一冊についての分類は明示していない。ご容赦いただきたい）
!陰謀的世界観
第１巻『大いなる陰謀』の主人公は「陰謀理論」の学者である。前述したような怪しげな陰謀を真面目に研究し、あげくの果てには自身の身体的なコンプレックスまで陰謀のせいにしてしまう。こんなのはまだのどかなほうで、『黒衣伝説』では語り手の陰謀妄想が読者の脳髄を浸食してしまう。
また、陰謀妄想が[[アメリカ]]社会をおおった時代もあった。敵は共産主義。いわゆる「赤狩り」の時代である。『寂しい夜の出来事』などのマイク・ハマーものに、そういうパラノイアックな反共意識をうかがうことができる。
!陰謀主体としてのアメリカ政府
アメリカ政府というものを懐疑的に描く作品が増えたのはヴェトナム戦争以降だろうか。『ファイアスターター』のような「政府機関の陰謀」は、ドラマ「Ｘ−ファイル」でもおなじみである（本全集には含めなかったが、ディーン・クーンツの作品にも頻繁に見られる）。また、『アメリカン・タブロイド』、続く『アメリカン・デス・トリップ』は、アメリカ現代史をタブロイド紙ばりのいかがわしい陰謀劇として捉えなおす力作。
!陰謀主体としてのナチ残党・ネオナチ
第二次大戦を背景にした幾多の冒険小説で敵役を演じてきたナチ。ユダヤ陰謀論を唱え、疑似科学やオカルトにも耽溺していた彼らは、怪しげな陰謀の主体になる資格を十分に備えた存在だ（イタリアのファシスト党が陰謀を企む小説が何冊あるだろう？）。『ブラジルから来た少年』のような、酒の席の与太話みたいなアイデアをまじめに膨らませた作品こそ、すぐれた[[陰謀小説]]といえよう。
なお、本全集には収めていないが、朝松健『邪神帝国』はナチスのオカルト面を強調した好例である。
!陰謀主体としての日本
現実の国際政治の場においては陰謀の主体になりそうもない日本だが、フィクションの世界では違う。太平洋戦争時の日本軍はオカルティックな秘密兵器を繰り出し、現代の日本企業は（なぜか）ニンジャやサムライを暗躍させて世界経済の支配を狙うのだ。
!経済的動機に基づく陰謀
企業が利益を守るため犯罪行為に手を出す……ってのは現実にも珍しくないが、テロや殺人にまで手を出したりするのがこのカテゴリーに入る。
!思想・政治的信念に基づく陰謀
世界を変えようという遠大な野望を持つ秘密の組織。そして野望を実現するための奇想天外な手段と並外れた努力。……世界征服を狙う秘密結社は、地道な努力の大切さを知っている。フィクションの世界の陰謀集団の真摯さには、現実の政党など足元にも及ばない。
!信仰に基づく陰謀
ミステリよりもホラーに多くみられる。かつてカルト宗教のテロ活動が日本を騒がせたが、この手の小説では本当に超自然的な力を駆使してしまうから大変である。『アーカム計画』の救いのなさにはただ戦慄。
!陰謀史観とミステリ
最終巻を飾るのは『九マイルは遠すぎる』。陰謀そのものを描いている作品ではないが、「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。ましてや雨の中となるとなおさらだ」という一文から予想外の事実を導き出す過程は、1ドル札のデザインからフリーメーソンの世界支配の野望を読み取る行為にも似ている。陰謀史観とミステリ。世界に対して過剰なまでの解釈を試みるという点で、この二つの分野は交わっているのかもしれない。
