■あるいは閉ざされた小さな場所。
江戸川乱歩は閉ざされた小さな場所に独特の偏愛を抱いていたようで、「人間椅子」なんてのはその好例。あの話は、他の作家が書いてもあれほど面白くはならなかったんじゃないか、と思う。
そういえばミステリで好まれる「密室」というシチュエーションも閉ざされた小さな場所であり、それを意識した作品も少なくない。最も記憶に残っているのは、ペール・ヴァールー&マイ・シューヴァルの『密室』。ある中年刑事の捜査活動を追う物語で、謎解き重視の作品ではない。だが、ここに描かれる密室は、単なる事件現場ではなく、社会そのものの閉塞感とも重なり合う。深く憂鬱な余韻を残す作品だ。
そんな、閉所恐怖症の人にはオススメできない小説をいくつか思い出したので挙げておこう。
『魍魎の匣』京極夏彦
箱の中はみっしり詰まっているべきである、というテーゼを確立した名作。
『箱男』安部公房
段ボール箱をかぶって生活する男の話……としか説明しようがない。登場人物の看護婦さんがどうにもえっちでよいです。
『箱のなかのユダヤ人』トマス・モラン
第二次大戦下、オーストリアの田舎。ぼくの家は、恩のあるユダヤ人医師を屋根裏の「箱」にかくまうことにした……閉鎖空間でのドラマが魅力。
『箱の女』G・K・ウオリ
原題は”American Outrage”。事故で箱の中に三日間閉じ込められた女性の変容を軸に、現代アメリカのさまざまな面を浮き彫りにする。ニューイングランドの田舎を舞台にして、土俗的な味わいが濃い。
『地下室の箱』ジャック・ケッチャム
異常者に拉致され、地下室の箱に閉じ込められた女性の話。元気になれる鬼畜小説。→詳細
「人間椅子」江戸川乱歩
短い中にも、乱歩の変態ぶりが遺憾なく発揮された名品。(amazonで検索)
「早すぎた埋葬」エドガー・アラン・ポオ
生きているうちに埋葬されてしまう、という恐怖(『ポオ小説全集3』などに収録)。
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