愛ウラジーミル・ソローキン / 亀山郁夫訳 / 国書刊行会

 昔のロシア文学によく描かれる、帝政ロシア時代の田舎の田園風景。それが一瞬にしてスプラッタ風の殺戮劇場と化す……。長編『ロマン』で一部に衝撃を与えた現代ロシアの異端作家、ソローキンの短篇集。

 表題作は、老人が若い頃の恋愛を回顧して話しているところから始まる。が、肝心の恋愛話が始まったとたん、すべてが「………………」で覆いつくされてしまう。1ページくらい「…………」が続いたその後は、いきなりバイオレントなクライマックスが待ち受けているのだ。

……いやあ、これはすごい。言葉を使って組み立てられた爆弾、といったところか。豊饒な物語の可能性を孕んだストーリーが、いきなりねじ曲げられ、汚穢と暴力に満ちた世界へと変貌する。

 破壊衝動の描き方としては、映画にもなった『ファイト・クラブ』みたいに、登場人物の行為をどんどんエスカレートさせるという手があるが、この短編集もそれに近い。

 が、本書で破壊されるのは物語だけではない。時には物語を綴る言語そのものまで破壊されてしまう。計算したうえでキレている。

 読者の存在を意識することなく、作者の気の向くままに綴られる文章だが、その壊れ具合は実に楽しい。

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