アンドレイ・クルコフ / 新潮社
動物園が手放したペンギンと暮らす、売れない小説家ヴィクトル。ある日、存命中の人々に関する追悼文の執筆を頼まれる。
やがて、彼が追悼文を書いた人物が次々と命を落とし、彼の身辺にも不穏なできごとが……。
パラノイアな色彩を抑えた、穏やかな感じの陰謀小説。
アンドレイ・クルコフはウクライナの作家。ウクライナといえば最近(2004/12)大統領選挙をめぐって陰謀めいた騒ぎまで起きているだけに、こういう話も出て来やすいのだろうか。
といっても狂ったような熱気などは皆無。主人公の淡々とした日常と、その合間に起こる物騒で不可解なできごとが、静かなタッチで描かれる。男一人とペンギン一羽の孤独な暮らしに、いつのまにかギャングの娘やベビーシッターまでが加わって、擬似的な家族のようなつながりが生まれる。
ペンギンを連れてピクニックに出かけるような愉快な場面と、謎めいた人々が交錯する不気味な場面とがバランスよくミックスされて、憂鬱さとユーモアの入り混じった小説になっている。
やはり印象的なのはペンギンのミーシャの存在だ。特に大活躍するわけじゃなくて、ぺたぺたとそのへんを歩き回って魚を食べているだけ。「ただそこにいるだけ」という感じがよい。