捨て子だったネペンテスは王立図書館で育てられ、今では古代の文字を読み解く日々を過ごしていた。魔術を学ぶ若者から預かった一冊の書物が、彼女を虜にする。茨のような文字で記されていたのは、数千年前に多くの国々を征服した皇帝と魔術師の伝説。だが、書物に記された史実は、世に知られたものとは異なっていた。皇帝が生きていた時代から数百年後に栄えた国々までもが、彼に制覇されたというのだ。
彼女が書物を読んでいる間にも、幼い女王が即位したばかりの王国では、権力をめぐる不穏なたくらみが渦巻いていた……
異世界を舞台にした物語。もっとも、登場人物の身の回りについての描写は丁寧だが、より大きなスケールでの記述はかなり曖昧で、世界の姿をイメージしづらい。解説に述べられているように、緻密に異世界を描き出すのではなく、感覚的なイメージを重視する作家のようだ。
ネペンテスが古文書を解読する話と、その古文書に記された古代のできごと、そして現代を舞台にした幼い女王をめぐる政治的なもつれとが並行して語られる。ばらばらのエピソードが、クライマックスで一転に収束する。こういう構成力は見事。
その構成を支えているのが、伝えられた歴史と書物に記された歴史との矛盾という謎だ。それがたったひとつの仕掛けによって解決されて、ある構図が浮かび上がる。それまで作中で宙吊りになっていた事柄が伏線となって、浮かび上がった構図を補強する。伏線の回収はなかなか巧みで、「ああ、だから○○が××だったのか!」という、優れたミステリに通じる驚きを味わうことができた。
登場人物はみんな鮮やかに描かれ、それぞれの関係も丁寧に描かれている。にもかかわらずクライマックスからの急展開があっけなく感じられるのは、やはりこの構図がもたらす驚きこそが最大の見せ場だからだろう。
これは架空の世界でないと使えない技だよな……と思ったけれど、東洋を舞台に似たような仕掛けを使った例を思いだした。荒山徹のある作品である。無茶だなあ(荒山徹が)。