クライヴ・バーカー/ 嶋田洋一訳 / ヴィレッジブックス
ルーマニアの修道院から、アメリカ西海岸の屋敷に運び込まれたタイル絵。そこには、ありとあらゆる残酷で淫らな情景が描かれていた。そしてタイル絵の置かれた部屋には、強大な魔力が宿っていた……。タイル絵が作り出す異世界を通して、ハリウッドという異世界を描いて見せた作品。
物語の前半は、やや落ち目のアクションスターの視点で綴られる。彼が巻き込まれる災難は、まさしく虚飾の世界ならではのもの。虚飾といえば、作中には古今のスターが何人も実名で登場する。中にはすさまじい倒錯者として描かれている人もいるので、こんなこと書いて大丈夫だろうか、と思ってしまう。だが、そういう醜聞をも糧として取り込んでしまうのがハリウッドという魔境なのだろう。艶やかな花と、その下の爛れた土壌。そんな対比が、すでに飽きるほど語られたことであるにもかかわらず、実に鮮烈に浮かび上がる。
その描写を支えているのが、もうひとつの魔境──ハリウッドのはずれに建てられた屋敷だ。その描写は、「血の本」シリーズでデビューした作者ならでは。背徳的な場面もあれば、凄惨で不気味な光景にも事欠かない。異世界を組み立ててゆくパワフルな想像力の結晶を存分に楽しめる。屋敷に君臨する、現代では忘れられた往年のヴァンプ女優も、いささかステレオタイプではあるが(まあ、ステレオタイプな役柄を演じていた女優という設定なので)、物語のシンボルとしては十分に魅力的な存在だ。
いい意味で予想を裏切る構成はなかなか巧み。特にファンクラブ会長の主婦が見せる意外な一面は、これはもう必読といっていいだろう。
ラストの情景も、不気味な美しさをたたえて印象に残る。
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