■収録作品
ノアの子孫
ニューイングランドの閉鎖的な町……というとつい「インスマスの影」を思い浮かべてしまう。対象は似ていても、恐怖の質感はそれぞれでずいぶん違うのだけれど。
レミング
無常感漂う渾身の一発芸。
顔
最近書かれたもの、といっても通用しそうなくらいにテーマが現代的。短いながらも密度の濃い衝撃作。デビュー作の「モンスター誕生」とも通じ合うところがあるように感じた。
長距離電話
こういう展開でこういう終わり方かな、と読めてしまってもひきこまれてしまうのは、やはり演出方法の妙だろう。
人生モンタージュ
映画「チーム・アメリカ」の劇中、主人公の特訓シーンのBGM、“モンタージュの歌”を思い出した。
天衣無縫
ふつうのおじさんが突然知識の泉に。「アルジャーノンに花束を」をどす黒くしたような。
休日の男
「見えてしまう男」の苦悩。『フラッシュフォワード』あたりを思い浮かべた。
死者のダンス
本筋はさておき、「未来の退廃的な文化」のレトロ・フューチャーぶりが印象深い。
陰謀者の群れ
わずかなページにまとまった理想的な陰謀小説。パラノイアックな焦燥感は何度読んでも鮮烈。
次元断層
話の傾向は全然違うけど、恒川光太郎「夜市」を連想した。
忍び寄る恐怖
全米がロサンゼルス化する恐怖を描いたバカ話。「西海岸の人間」に対するステレオタイプなイメージは、どうやらアメリカ国内においても通用するらしい。
ある人曰く「東海岸の人と仕事していると、まじめに品質の良し悪しとかを話すんだけど、西海岸の人はすぐに”cool!”とか言い出すんだよねえ……」。でも西海岸の人は、こちらが仕事をがんばると、お礼にカリフォルニアワインを贈ってくれたりするのでcoolです。おいしかったよ。
死の宇宙船
これまた、語り方で成り立っている作品。アイデアストーリーではあるが、何度読んでも楽しめる。
種子まく男
こちらも陰謀小説的観点から見て興味深い作品。ご町内に不和をまき散らす男の内面が一切語られないところがポイントだろう。