桐生祐狩 / 角川ホラー文庫
その陰謀のシステムが最も色濃く抽出されているもの、それが「掃除」なのである。
すばらしい。
この世界は浄神と不浄神の闘争の場であった……という宇宙観のもとに繰り広げられる汚物ぐちょぐちょホラーであり、「“清潔”という概念が支配的になったのは奴らの陰謀だ!!」という妄想がスウィングする陰謀小説でもある。
本書の最大の強みは、清浄/不潔という対立軸をつくりあげたところにある。「善と悪」とか「光と闇」とか「法と混沌」なんて対立軸を描いた物語は山ほどあるけど、「きれい/きたない」という二項対立の生々しさには及ばない。
ぐちょぐちょぬちゃぬちゃした汚い描写がそこかしこで繰り広げられる。そういう作品は世の中にたくさんあるけれど、こいつはその汚穢描写なしには成立し得ない。グロ描写こそが本質であり、不浄なものを描くのが必然。そんな物語である。
『夏の滴』以来この人の作品を読んできたけれど、デビュー作の衝撃には及ばない……という印象が強かった。今は違う。こいつがある。解説の「クトゥルー神話」「コズミック・ホラー」云々は舞い上がり気味な気がするが、これに関しては舞い上がるのが正解。人をして正気を失わしめる一冊である。
本書の気色悪さを堪能するためには、やはり食事中に読むのがおすすめ。自分ではそんなこと絶対にしないけど。