地下室の箱

ISBN:4594031463ジャック・ケッチャム / 扶桑社ミステリー

 「私は、この本から生きる勇気をもらいました」なんて帯のついてる本はなんとなく嫌いだ。「全米を感動の渦に」とか「癒し」とかも同様。どこかうさんくささを感じてしまう。
 そんなの読むくらいならやっぱりケッチャムでしょう。……と思って手にとったのがこの本。

 妻子ある男と関係を持ち、妊娠したサラは、お腹の子を中絶するために産科の医師をたずねる。しかしその途上、彼女は謎の男女に捕われて、地下室に監禁されてしまったのだ。男女の目的は何か? 虐待を受けるサラの運命は……? という内容である。

 拉致/監禁/虐待。そう、これはまぎれもなく天下の鬼畜本『隣の家の少女』と同系の作品だ。あの作品の後味の悪さは半端じゃなかった。でも、この本は違う。逆境の中で、人格崩壊を起こしかけながらも力強さを見せるヒロインの姿は前向きだ。
 読後感も実にポジティヴな鬼畜小説である。私は、この本から生きる勇気をもらいました。……うーん、まずい徴候だなあ。

 ちなみに、サラを監禁する男が抱くいびつな信仰心もさることながら、男がサラに語る『組織』をめぐる陰謀めいた話も、一部のアメリカ人が抱くオブセッションを象徴しているかのようだ。この『組織』をめぐる物語がサラを内面から束縛してしまうという展開は、理不尽な世界になんらかの解釈を与えてくれる「物語」というものの危険な魅力を表している。

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