海堂尊 / 宝島社
『チーム・バチスタの栄光』から始まる、田口&白鳥シリーズ最新作。今回の舞台は医療現場ではなく、厚生労働省の会議室。ミステリらしい事件が起きるでもなく、ただ会議と根回しだけが続く。
というわけで、普通ならきわめてつまらない話になりそうだが、その会議と根回しだけの話を最後まで飽きさせずに読ませてしまうのがこの作者の力量。会議の背後に渦巻く官僚や学者たちの思惑と暗躍を連ねて、謀略もののような駆け引きを描いてみせる。書類あさりとインタビューだけで成り立っているジョン・ル・カレの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』のようなもの、しかもル・カレより読みやすい。
読みやすさの理由は、登場人物たちの立場の違いを明快にしているからだろう。そのせいか、デフォルメが効き過ぎたように感じられるキャラクターもいる。たとえば厚労省の官僚なんて、いくらなんでも部外者の前でこんなに正直に本音を語ったりはしないだろう(そういうことを平気でするから、本シリーズでの白鳥は異端の存在として強い印象を残していたのだが)。まあ、みんなが婉曲的なしゃべり方ばかりすると、それこそル・カレになってしまうのだが。
デビュー作からしてそうだったけど、現実の医療制度に対する危機感が強く感じられる。後半はほとんど『死因不明社会』の小説版。ただし、なにぶん会議と根回しだけの話なので、作者の主張がほとんどそのまま登場人物の口を借りて語られるだけになっているのはちょっと残念。作者の危機意識を物語に取り込む、という点では『チーム・バチスタの栄光』や『ジーン・ワルツ』などのほうがうまくいっている。あまりいないとは思うけれど、本書で初めてこの作者の本を読む、という人はかなり戸惑うことだろう。