象の棲む街

ISBN:4104646016渡辺球 / 新潮社

『武装島田倉庫』の雰囲気と、『家畜人ヤプー』のある側面を備えた小説。

舞台は、アメリカと中国に収奪され、最貧国に落ちぶれた未来の日本。薄汚れた近未来──といっても、「ブレードランナー」やウィリアム・ギブスンのような退廃の近未来というよりは、『武装島田倉庫』みたいに敗戦直後を連想させるような猥雑さを基盤としている。

食糧危機に際して、アメリカと中国が支給する非常食の正体が明かされるところで、『家畜人ヤプー』を連想した。『ヤプー』のようなSM/SFを基盤にした奇想と妄想の奔流はここにはない。だが、日本人への陵辱を理性と感覚の両方を刺激する形で描いているところは共通している。ともすれば抽象的になりがちな要素を、非常食という形で生々しく描いている。

最も『ヤプー』を連想させるのは、象というモチーフがようやく活かされるラストの場面。象というキーワードは、題名をはじめ、作中早い段階から何度も出てくるというのに、どうもうまく使いこなせていないような印象があった(もっともそれは、象以外にも心を惹かれる要素がたくさんあるからなのだが)。その不満を払拭して余りある……とまでは行かないにしても、なかなか巧妙なしめくくりではある。

さて、こういう独創的な作品のことを語るために既存の作品の名を挙げたのは、私の表現力の問題だ。これは『家畜人ヤプー』の二番煎じなんかじゃないし、もちろん『武装島田倉庫』とも異なった手ざわりの作品だ(作中世界の描き方と、登場人物が少しずつ重なる連作、というところは似ているけれど)。

薄汚れた未来の、生々しい手触りが印象に残る作品だ。

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