■物語そのものが壊れてゆく、小さな破滅の物語>
小男の殺し屋リトル・ビガーは、ある裁判の重要証人の口封じに雇われて、田舎町にやってきた。学生を装って、標的の家に下宿しながら、暗殺の機会をうかがっていたが、標的の妻、足に障害を持つ女、世話好きの老人など、一筋縄ではいかない人々が彼の周囲に現れる……。
ゆがんだ世界のゆがんだ物語。誠実にして邪悪な主人公もさることながら、自堕落な標的の妻、片足に障害を持つ女といった女性陣にも、とらえどころのない感覚が漂っている。そして何より、主人公に親切にしてくれる老人。善意に満ちていながら、その善意のあらわれかたはどこか不気味だ。
終盤の壊れ具合は戦慄モノ。単純なクライム・ノヴェルに見せて、結末の破天荒な展開からはかなり精緻な構造が浮かび上がる。
巻末には馳星周の絶賛文章がついているが(エルロイの『ホワイト・ジャズ』、ヴァクスの『凶手』以来の熱さだ)、馳星周が絶賛するのはきわめて当然のこと。それ以外の向きにも、もっともっと評価されてしかるべき作家だと思う。
(※『残酷な夜』のタイトルで扶桑社からも刊行)