氷の収穫

スコット・フィリップス / ハヤカワ・ミステリ文庫

 題名はダシール・ハメットの『赤い収穫』を連想させる。たしかに、舞台となる街の閉塞感などは、通じる部分がないでもない。が、「赤」と「氷」じゃずいぶんイメージが違う。

 時はクリスマス・イヴ。後ろ暗い方法で人生の賭けに打って出ようとたくらむ弁護士のチャーリイは、町を後にする前に、なじみの店や付き合いのある人々のところを訪ねて歩く。……そんなふうに始まる前半は、たしかに怪しげな描写はあるものの、どこがミステリなんだろうか、と思ってしまうような展開を見せる。

 しかし、この小汚いうらぶれたクリスマスストーリーは、中盤からにわかに別の顔をのぞかせる。奪い取った大金をめぐって、男女の欲望と相互不信が渦を巻く。……と、あとは典型的なノワールの展開。

 ノワールの典型をいまさら見せられてもなあ、と思う部分もそれなりにあり、個人的には前半のほうが楽しめた。……ミステリとして、あるいはノワールとしての楽しさとは別物だけれど。

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