ブレント・ゲルフィ (著), 鈴木 恵 (翻訳)
現代ロシアを舞台にした犯罪小説。主人公はチェチェン紛争で片足を失った元軍人、今ではマフィアの一員。幻の名画を奪い合う大物同士の暗闘に巻き込まれ、政治家たちも関わるロシアの暗黒社会で,生きるか死ぬかの闘いを繰り広げることに……。
ソ連の崩壊は、冒険小説やスパイ小説の便利な敵役を消し去ってしまったかもしれない。だが、代わりに腐敗と暴力のワンダーランドを生み出した*1。書いているのはロシア人ではなく、他国の作家たち。フリーマントルの最近の作品をはじめ、フィリップ・カー『屍肉』、ロビン・ホワイト『永久凍土の400万カラット』、ジェームズ・ホーズ『腐ったアルミニウム』とか。当のロシア人はあまり愉快な気分ではないと思うが、今や暗黒ロシアはこの手の小説の有望な舞台になっている。
主人公もその恋人も敵役たちも平気で人を殺すような連中ばかりで、暴力描写はけっこう凄惨。暗黒ロシアという不穏な舞台の生々しい描写も加わって、過酷な緊張感が全編に漂っている。
*1 : もちろん、実際のロシアがどうかは知らない。怪しげな事件はいっぱい起きているようだが。