スティーヴン・グリーンリーフ / ハヤカワ・ポケットミステリ
このサイトの更新頻度からも分かるように、ひとつのことをこつこつと続けるのが苦手だ。だから、シリーズものを通して読みつづけることもめったにない。
グリーンリーフ描く私立探偵タナーの物語は、その数少ない例外だ。
どうしてだろう?
プロット作りが優れているから? たしかにグリーンリーフの話作りはうまい。でもそれだけじゃない。
このシリーズを飽きることなく読み続けられたのは、グリーンリーフがグリーンリーフであり続けたから--枯葉にならなかったからだ。
第一作「致命傷」は、ロス・マクドナルドが作り上げた私立探偵小説のフォーマットに忠実な小説だった。このころからプロットは精緻だったが、あまりにも基本に忠実である、というところがかえって作品の印象を弱めていた。
それはグリーンリーフ自身も気づいていたのだろう。彼の私立探偵小説というジャンルへの認識は、やがて「探偵の帰郷」からのいくつかの作品で、私立探偵小説への自己言及のような形で実現される。そして、作品のプロットも「ジャンルのお約束」に縛られないものになってゆく。
シリーズで最も有名なのは「匿名原稿」だが、これなんかは私立探偵小説以外のジャンルのお約束にもとづいて書かれた私立探偵小説と言ってもいいだろう。以降の作品も、ジャンルの定型から踏み出しながら、しかし私立探偵小説としか呼びようのないものになっている。
最終章なんて題名につられて、ついついシリーズをまとめてしまうようなことばかり書いたけど、もちろんこれはグリーンリーフの最終章なんかじゃないはずだ。