グランド・イリュージョン──違法の騎士/異邦の既視

映画館に行って強引な力技に騙されてきた。

フォー・ホースメン(黙示録の四騎士)を名乗るマジシャンたちが、到底不可能としか思えない状況で大金を奪ってみせる。
何とか彼らの尻尾をつかもうとするFBIは、手品の種明かしを生業とする男に協力を求めるが……という物語。

予告編に描かれる、ラスベガスのショーでパリの銀行から大金を盗み出す場面をはじめ、華やかな絵で見せる数々の不可能犯罪。その種明かしに、妙な既視感を覚えた。
なんかこんな感じのミステリ作家がいたな。
全編を通じて強力な催眠術に依存するところは、江戸川乱歩描く怪人二十面相のようではある。
でも、江戸川乱歩じゃない。

びっくりするような状況を作るためなら、コストもリスクも度外視する犯人。
目的に対してあまりに過大な手段だってかまわない。本末転倒も厭わないその姿勢。
ああ、これは島田荘司だ。
驚かせるためなら手段を選ばない。むしろ少しくらいは選んでほしい。思わず天も動いてしまう強引な奇想。
それは無理だろと突っ込みたくなるのを我慢できない、それでも何故か抗いがたい奇妙な魅力。
石橋を叩くくらいなら、派手に突進して橋ごと川に落ちてみせる愚直なロマンティック・ウォリアー。
おそらく、島田荘司作品の解決部分を読んで立腹したことのない人なら、この映画も十分楽しめるはずだ。
そして何より、劇中のマジシャンたちにとって、あの過剰な仕掛けは決して本末転倒ではない。

もっとも、島田荘司なら無茶を山ほど重ねて説明をつけてくれるところを、この映画では華やかな絵で説明をごまかしてる部分が少なからず存在する。ちょっとずるい。たとえ突っ込みどころが増えても(どうせすでにたくさんあるのだ)、ロマンティック・ウォリアーを見習ってほしい。

なお、個々の事件の種明かしは島田荘司的ではあるが、もちろん全体の仕掛けはそれだけではない。
ストーリー全体で見れば、むしろクリスティー的と言うべきかもしれない。作中のセリフにもあるように、ミスディレクションを駆使している。見終わってから振り返ってみると、登場人物の行動の意味が鮮やかに反転してしまう。

いろいろ書いておいてなんだけど、未見ならば、予備知識は仕入れないことをおすすめする。
優れた驚きを提供するミステリと同じように、終わったとたんに最初から見直したくなった。
もう一度見たら、たぶんあのシーンとかあのシーンでうひゃあと声を上げて悶絶しそうだ。

カテゴリー: ミステリ, 映画 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です