金星のZ旗


吉岡平 / ソノラマ文庫

 『火星の土方歳三』が面白かったので、同趣向の第二弾にあたるこちらにも手を出してみた。日露戦争時の日本海軍の参謀・秋山真之が金星(もちろんバローズの描いた金星だ)に行き、大平原を駆ける陸上艦隊を率いて戦う。

 作者はバローズの金星シリーズに強い思い入れがあるそうで(陸上戦艦が出てくるからだ)、『火星~』よりも先にこちらを書きたかったらしい。

 ……が、できばえは『火星~』には遠く及ばない。

 主人公の設定がその一因だろう。新撰組副長ならばともかく、秋山真之は日本海軍参謀というデスクワークの人なので、こういう冒険活劇にはあまり向いていない。クライマックスの陸上艦隊戦が数少ない見せ場だけれど、あとがきで明かされる作者の思い入れのわりには描写も分量も控えめだ。

 ほかには、現実に密着しすぎたひねりのない風刺(アリコ国とパンジャ国なんてのが出てくる。パンジャ国の指導者の描写は露骨に小泉純一郎をなぞっている)、「火星」に比べ乏しいディテールの描写など。ちなみにこれは、バローズの原典にも見られる欠点である。あとがきを読むかぎりでは、作者もそれに気づいていたのではないか。

 作者は本当に金星シリーズが好きなのだろう。原典のまずい部分まで忠実に再現してしまう。これは偽りのない愛だ。惚れてしまえばあばたもえくぼ。ダメなところもいとおしい。ただし残念なことに、読者がその愛を共有できるとは限らない……。

カテゴリー: SF パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>