スティーヴン・ボチコ / 文藝春秋
「ハリウッド小説」という区分がある。小林信彦だったか中田耕治だったか、エッセイでそんな表現を用いていた。ここ1年少々の間(2004年~2005年)に訳されたものだと、
- 『幻のハリウッド』
- 『冷たい心の谷』
- 『ハリウッドで二度吊せ!』
- 『ハリウッドは鎮魂歌を奏でる』
などなど。……で、この本も「ハリウッド小説」のひとつだ。
まるで「裏窓」の主人公のように殺人事件を目撃してしまったスランプ気味の脚本家を中心に、その離婚寸前の妻、殺人を犯した女優、事件を捜査する刑事らが織り成すサスペンス。ごくオーソドックスなつくりではあるけれど、語り口で読ませるタイプの小説だ。
語り手をつとめるのは、くだんの脚本家のエージェント。なぜかこの人、自分がその場に居合わせなかったできことを自分の一人称で詳しく語っているのだが、その事情は最後に明かされる。
登場人物がみんなそろって自己の欲望に忠実で、セックス描写もやたらとあけっぴろげだ。ポルノとまではいかないけれど、艶笑談めいた雰囲気は確かにある。
ジョークや小話をうまく配して、人物などの描写に役立てている。ある人物の葬儀のシーンで、遺族がスピーチでユダヤ人と浣腸に関するジョークを口にするあたりが象徴的だ。「犬が自分の考えた物語を飼い主に話して聞かせる」という話も、物語の流れを握る鍵として巧みに使われている。
作者は「刑事コロンボ」の脚本をはじめ、アメリカのTVドラマ制作では知らぬもののない大物。脚本を書いていた人の小説というと、地の文がト書きっぽくなってしまうという印象があるけれど、この小説は地の文も楽しい。