デイヴィッド・アンブローズ / 創元推理文庫
題名どおり、ハリウッドを舞台に起こる奇妙な物語を収めた短編集。
■収録作
フィリップ・K・ディックの短編を連想させる。最後の一行のダブル・ミーニングが効いている。
O・ヘンリーばりの「いい話」を、ぐいっとねじ曲げてみせた。善意がもたらす悲喜劇を描いた、残酷にして暖かい一編。
名優たちの幽霊といえば、『
冷たい心の谷』にも登場していた。題材そのものは、アメリカではかなりポピュラーな都市伝説らしい。ヒーローやアイドルの不滅を願う心理から生まれたのだろうか。「源義経がジンギスカンになった」という説を思い出す。
最後の一行がフレドリック・ブラウンの短編を連想させる。もしブラウンが、パソコンが普及した時代に活躍していたら、真っ先にこういう短編を書いていたんじゃないだろうか。
スタンダードな物語を、奇抜なシチュエーションのもとで描く小説がある。ありがちなハードボイルド私立探偵がナチ支配下のベルリンで活躍する『
偽りの街』とか、あるいはハイジャックされた飛行機という閉鎖空間での殺人捜査を描く石持浅海『
月の扉』なんかもそのくちだろう。で、この作品もそれ。ふつうの恋愛小説なんだけど、男はポルノ男優、女はポルノ女優という設定が話をおもしろくしている。
短編小説でなければできない幻惑の語り。『冷たい心の谷』にも描かれた虚飾の世界の一面が、「虚飾」を虚飾と感じない男の口から語られる。
小粒でぴりりと辛い犯罪小説。