■ミス連忘年会
正式名称は「早慶交歓会」だったような気もする。年々、現役よりもOBが多くなっているような……。
翻訳者の方々が中心になって開催している忘年会。今年は書評家方面の出席者が異常に少なかった。大森望さんが「これは何かの陰謀で、我々は仲間はずれにされたのだ」という説を提唱していた。
毎度のことながら遅れてしまってすみません>編集部
今回担当したのはこの4作。
『よい子はみんな~』は、クリスマス・ストーリーとしてもおすすめの、ユーモアと危うさが同居するサスペンス。
IRAと英国政府のチェスゲームを描いた『七月の暗殺者』は、「駒」の内面もきっちり描かれていて、強く激しくおすすめ。
『007~』はお約束の踏襲が素敵。
扱いに困ってしまったのが『レイジング~』。南極の氷の下に超古代文明の遺跡がありましたよ、という『エイリアンvsプレデター』からエイリアンとプレデターを取り除いたような話だ。南極で超古代文明の遺跡を見つけましたよ、という話ならば、大風呂敷の達人クライヴ・カッスラーによる『アトランティスを発見せよ』という偉大な先達があるわけで、あまり何のヒネリもない話を書くのはどうかと思う。
南極といえば、超古代文明の遺跡やナチの残党が出てくるのはお約束である。したがってそういうものが出てきても、喜びはするけどあまり驚いたりはしない。
今までにいちばん驚いたのは、南極を舞台にした冒険小説に北朝鮮特殊部隊が出てきたときだ。よくぞこんな遠くまで。思わず目頭を熱くしてしまった。
推理作家協会賞短編部門の予選のため、会社を定時で飛び出して推理作家協会事務局へ。とどこおりなく各自の作業分担を済ませて、1時間弱で解散。
席上でもちょっと話題になっていたのが、今年の「このミス」だった。最近は、書店でも大々的にフェアを催すことも少ないようで、ちょっと寂しい。
同意したのはp.75、味わい深かったのはp.77最上段。
それはさておき、ジャンル別総括の海外編で、小池啓介(本格)/川出正樹(サスペンス)/古山裕樹(犯罪小説・警察小説)の三者がそろってマイケル・スレイド『斬首人の復讐』を取り上げているのは、談合でも牽強付会でも騎馬警察の陰謀でもなく、ごく自然な流れです。だって本格ミステリだしサスペンスだし警察小説だし。
とはいえ、三人そろってスレイドというのは笑ってしまった。別に互いの好みが似通っているわけでもないのだが。そんなわけで、アンケート集計では12位だったけど、心の中では2005年のプチ三冠王です。そしてもちろん永遠の一番星。
それにしても生頼範義の表紙は強烈である。『マヂック・オペラ』みたいな作品の表紙にはいいけど、モノによっては中身が表紙に負けてしまいそうだ(本じゃないけど、一部のゴジラ映画なんかは負けているような気がする)。
そんなわけで、いろいろな本について「表紙・生頼範義」だったらどうなるのかを妄想するのはなかなか楽しい。
ちなみに、さっきから「もしもドナルド・E・ウェストレイクの『踊る黄金像』の表紙が生頼範義だったら」という妄想が頭から離れなくて困っている。おかげで原稿も進みゃしない。ガッタ・ハッスル。
ギャンブルで借金を抱えた保険セールスマンのアンソンが出会ったのは、退屈な夫との暮らしに倦んでいた美貌の人妻メグ。彼女は小説を書いていて、そのプロットを利用した保険金詐欺をしないかとアンソンに持ちかける。かくしてアンソンは、彼女の夫を殺そうと策を練る。だが、そこには思わぬ罠が……。
どん詰まりの日常、誘惑に満ちた出会い、そして一獲千金の危険な賭け。この手の小説じゃ、おなじみのシチュエーションだ。
ただしアンソンにとって、「危険な賭け」は決して「危険な夢」につながるものではない。
だが、お笑い種なのは自分でもわかっていた。一年で、いや、そんなにもかからずに、五万ドルなんか消えてしまうにきまっている。金なんかいつまでも持っていたためしがないのだ。(p.56)
彼は自分自身を信じていない。夢想は夢想に過ぎないことを知っている。自分の弱さからくる、ろくでもない末路が見えているのだ。
自分すら信じていないのだから、自分の共謀者を見る目も醒めている。
メグはセックスのお遊びとしてはすばらしいが、それ以上のものじゃなく、ぜったいに力になんかなってくれない。あれはだめな女だ。なにもやれない、どうしようもない屑で、おれとおなじ金のとりこでしかない。(p.57)
……とわかっているけれど、彼は目先の快楽にあっさり屈してしまう。上のように、メグに対して辛辣な思いを抱いたあとの彼の行動はこうだ。
枕にひっくりかえり、拳銃をなでさすりながらまたメグのことを考える。(p.57)
ひとりでいい気分、というわけだ(拳銃をなでさすりながら)。一方通行の思い入れ。そういえばこの作品は、裏切りと不信の物語でもある。アンソン以外の人物もそれぞれの思惑で動いていて、少ないページ数の中にさまざまな企みが交錯する。登場人物は互いを信用していない。あるいは、一方通行の信頼関係でしかない。そんな見せかけの信頼関係が破綻する瞬間に、驚きが仕掛けられている。
ずるずると転落してしまう男が、抜け道のない破滅にはまり込んでしまう物語。突き放すような幕切れが、どうにもならなかった男の哀感を浮き彫りにする。
ポプラ社の全20巻セットISBN:4591996565を購入した。文は南洋一郎。原典からの大胆な改変が多いので、「訳」ではなく「文」になっている。
その巧妙な改変を絶賛したのが、瀬戸川武資「南洋一郎は天才ではないだろうか」。この文章、セット中の『古塔の地下牢』ISBN:4591085333に解説として載せられている(巻末には「創元ライブラリ『夢想の研究』より」とあったけど、これが収録されてたのは『夜明けの睡魔』ISBN:4488070280じゃなかったっけ)。
たしかに南洋一郎が手を加えたことがプラスに働いているケースも多いけれど、常にいい結果をもたらすとは限らない。
たとえば『バーネット探偵社』をもとにした『ルパンの名探偵』。無料で調査を請け負う私立探偵バーネット(正体はルパン)が、事件を解決するついでに関係者から巧妙に金品を巻き上げてしまう連作短編だ。謎解きに加え、バーネットがいかにして利益を得るかという、二段構えの構成を取っている。
原作でのバーネットは、悪辣な手口も駆使してモノを手に入れるのだが、『ルパンの名探偵』ではそのへんの容赦のない描写が多少抑えられている(慈善団体に寄付する描写を付け加えたり、あるいは「盗み」の描写そのものを省いたり)。子供向けだから、という配慮だろうけど、原作の毒が薄くなっているのも事実。
おおむねこんなふうに過ぎてゆきました。
最初のが一番大変でした。後半3つは現在進行形。