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タイタス・クロウの帰還

ホラー
ASIN:4488589030ブライアン・ラムレイ (著), 夏来 健次 (翻訳)

地を穿つ魔』の続編。

前作の結末から十年。邪神の襲撃に遭い、行方不明となっていたド・マリニーが半死半生で発見された。彼の心に響くのは、離ればなれになったタイタス・クロウの助けを求める声。その声に応えるド・マリニーの助けを得て、ついにクロウは現代の地球に帰ってきた。時間と空間を超えた、クロウの驚異の旅路が語られる……。

クトゥルー眷属邪神群との決戦はまだまだ先。本書では、タイタス・クロウが帰還するまでのオデッセイが語られる。恐竜が大地を闊歩した過去から、人類滅亡後の遠い未来まで。さらには宇宙の彼方に栄える異質な文明との交流も(これがあまり異質な文明という感じがしなくて苦笑。SF向きの作家ではなさそうですね)。

陰謀小説めいた前作とは全く異なる、異境の旅の驚異を描いた物語。小説としてはきわめて荒削りだが、おもちゃ箱をひっくり返したような奔放な楽しさは前作を上回るところも。
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川を覆う闇

ホラー
ISBN:4043703031桐生祐狩 / 角川ホラー文庫
その陰謀のシステムが最も色濃く抽出されているもの、それが「掃除」なのである。
すばらしい。

この世界は浄神と不浄神の闘争の場であった……という宇宙観のもとに繰り広げられる汚物ぐちょぐちょホラーであり、「“清潔”という概念が支配的になったのは奴らの陰謀だ!!」という妄想がスウィングする陰謀小説でもある。

本書の最大の強みは、清浄/不潔という対立軸をつくりあげたところにある。「善と悪」とか「光と闇」とか「法と混沌」なんて対立軸を描いた物語は山ほどあるけど、「きれい/きたない」という二項対立の生々しさには及ばない。

ぐちょぐちょぬちゃぬちゃした汚い描写がそこかしこで繰り広げられる。そういう作品は世の中にたくさんあるけれど、こいつはその汚穢描写なしには成立し得ない。グロ描写こそが本質であり、不浄なものを描くのが必然。そんな物語である。

夏の滴』以来この人の作品を読んできたけれど、デビュー作の衝撃には及ばない……という印象が強かった。今は違う。こいつがある。解説の「クトゥルー神話」「コズミック・ホラー」云々は舞い上がり気味な気がするが、これに関しては舞い上がるのが正解。人をして正気を失わしめる一冊である。

本書の気色悪さを堪能するためには、やはり食事中に読むのがおすすめ。自分ではそんなこと絶対にしないけど。

地を穿つ魔

ホラー
ブライアン・ラムレイ / 夏来健次訳 / 創元推理文庫

ヨーロッパ各地で相次ぐ群発地震。ある嵐の夜、北海に浮かぶ大戸島を謎の災害が襲った。島に赴いた調査団の前に現れた巨大生物。それは、禁断の文献にのみ伝えられる、かつて地の底に封じられたはずの旧支配者シャッド-メルだった。シャッド-メルはやがてロンドンに上陸し、都市を破壊する。天才科学者タイタス・クロウ(平田昭彦)は、禁断の知識でシャッド-メルの息の根を止めようと、自ら地の底へ向かう。断末魔のシャッド-メル。静まりかえった穴の底を見て、ミスカトニック大学のピースリー教授(志村喬)は「あのシャッド=メルが最後の一匹だとは思えない……」と呟く。

……大戸島とか言い出したあたりから不正確な紹介になってしまったが、ともあれ非常に怪獣映画らしさあふれるお話だった。いつメーサー殺獣光線車が出てきてもおかしくない。

本書は根っからのクトゥルー神話好きが贈る、「ぼくの考えた邪神」が大暴れする物語である。そして、人類のために戦うひみつ結社、ウィルマース・ファウンデーションが邪神と死闘を繰り広げる物語でもある。

旧支配者や彼らに仕える種族といった神話作品の重要な構成要素を、CCD(Cthulhu Cycle Deities;クトゥルー眷属邪神群)という略語で表してしまうところに、この物語の姿勢がはっきり示されている。「忌まわしく名状しがたい」と長々と形容するのではない。畏怖の対象ではなく、効率が支配する領域での調査と研究の対象なのだ。

神秘性をはぎ取ってしまうような描き方は、たしかに「恐怖」を感じさせることはない。しかしラムレイは、そうすることによって「楽しさ」を持ち込んだのだ。先人たちが築いたクトゥルー神話作品の構成要素を組み合わせて、新たな物語を作り出す「遊び」の楽しさ。作者が感じたであろう、そのわくわくするような快楽が、行間から立ち上っている。

さらに、人類を守る秘密組織が密かに邪神と戦っているという設定を導入することによって、陰謀小説らしい色合いも帯びている。そもそもこの分野、ラヴクラフトの「インスマウスの影」や朝松健の『邪神帝国』などに見られるように、陰謀小説的世界観との親和性が強いのだ。

「いいから文章書くのやめて逃げろ」と言いたくなるような形で終わる手記。禁じられた文献からの引用。われわれの常識からかけ離れた奇怪な異種族。そんな手垢にまみれたクトゥルー神話的小道具を組み合わせて作られた、怪奇と妄想のテーマパーク──それがこの作品である。

怪獣総進撃ちなみに、本書のクライマックスとも言うべき第13章「シャッド-メル追撃」のBGMには、『怪獣総進撃』のテーマがよく似合う。
機会があったらお試しください。
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モンスター伝説

ホラー
仁賀克雄編 / ソノラマ文庫

「モンスター」をテーマにしたアンソロジー。

収録作

血の末裔 / リチャード・マシスン

吸血鬼にあこがれる少年の心情を描いた短編。吸血鬼に対するちょっと変わったアプローチが面白いと思ったら、よく見れば『地球最後の男』の作者ではないですか。納得。

鉄仮面 / ロバート・ブロック

 第二次大戦中のフランス。レジスタンスの窮地を救った鉄仮面の正体は? ……鉄仮面の素顔にかかわる種明かしはとっても陰謀小説めいていてよい。地底のシーンが重要な位置を占めているところも地底小説好きには好印象。ホラーとして云々というのは抜きにして、私の嗜好には最も合う作品。

これぞ、真説フランケンシュタイン / ハリー・ハリスン

 見世物小屋でフランケンシュタインめいた怪物をみた新聞記者と、興行師とのやりとりが主体の物語。この手の短編では定番のオチだけど、演出はなかなかいい。

魔犬 / フリッツ・ライバー

 灯火管制下の大都会。百貨店に勤める一人の男の恐怖心は、はたして妄想なのか……? 「都市生活者の不安」をホラーの形で描いて見せた快作。

サド侯爵の髑髏 / ロバート・ブロック

 サド侯爵の頭蓋骨を手に入れたディレッタントの運命は……? スタンダードな怪奇小説。

骨 / ドナルド・ウォルハイム

 古代エジプトのミイラが蘇生する……という話だが、正直なところミイラが出てくる話なら他にも面白いものがあるだろうに、と思ってしまう。

射手座(サジターリアス) / レイ・ラッセル

 フランスで起きた連続猟奇殺人を回想する老貴族と、その話を傾聴する青年。切り裂きジャック、ジキル博士とハイド氏、青髭(ジル・ド・レイ)といったネタを詰め込んだ作品。グラン・ギニョールの使い方など、初期のディクスン・カーみたいな雰囲気。

ゴースト・ハンターズ

ホラー
ASIN:4125008671尾之上浩司監修 / 中央公論新社

 ホラー・アンソロジー。序文では、『吸血鬼ドラキュラ』のヴァン・ヘルシング教授や、ホジスン描くカーナッキなんぞの名前が挙がっているけれど、ここに登場するハンターたちはいささかクセモノ。

収録作

デスメイト-死は我が友 / 山下定

 このアンソロジー中では、いちばんオーソドックスなゴースト・ハンターかもしれない。ほかは名探偵とかガンマンとかホームレス狩りの少年だったりするので。
 「敵」があまり印象に残らないのが残念だけれど、異様な主人公の描写は面白い。

「スマトラの大ネズミ」事件 / 田中啓文

 「赤毛連盟」ばりの怪しい新聞広告あり、ホームズの失踪を心配するワトソンあり、ホームズに関する新しい解釈あり、という正統派のホームズ・パスティーシュ。「スマトラの大ネズミ」の正体は、その気色悪さも名前の由来もこの作者らしい。

ゾンビ・デーモン / 友成純一

 毎度おなじみの流血肉汁臓物祭り。とてもいい加減なエピローグがついていて、他の作品だったら怒るところだが、この場合はたいへん似合っていて素晴らしい。

「根無し草」の伝説 / 菊地秀行

 19世紀後半、開拓時代のアメリカ。 ある幽霊屋敷の謎に挑むガンマンたちの物語。物語の全貌がなかなか見えてこないけれど、特技や個性のはっきりしたキャラクターたちの駆け引きが楽しい。「凄腕」どうしの勝負の場面は、作者ならではの読ませるできばえ。