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地を穿つ魔

ホラー
ブライアン・ラムレイ / 夏来健次訳 / 創元推理文庫

ヨーロッパ各地で相次ぐ群発地震。ある嵐の夜、北海に浮かぶ大戸島を謎の災害が襲った。島に赴いた調査団の前に現れた巨大生物。それは、禁断の文献にのみ伝えられる、かつて地の底に封じられたはずの旧支配者シャッド-メルだった。シャッド-メルはやがてロンドンに上陸し、都市を破壊する。天才科学者タイタス・クロウ(平田昭彦)は、禁断の知識でシャッド-メルの息の根を止めようと、自ら地の底へ向かう。断末魔のシャッド-メル。静まりかえった穴の底を見て、ミスカトニック大学のピースリー教授(志村喬)は「あのシャッド=メルが最後の一匹だとは思えない……」と呟く。

……大戸島とか言い出したあたりから不正確な紹介になってしまったが、ともあれ非常に怪獣映画らしさあふれるお話だった。いつメーサー殺獣光線車が出てきてもおかしくない。

本書は根っからのクトゥルー神話好きが贈る、「ぼくの考えた邪神」が大暴れする物語である。そして、人類のために戦うひみつ結社、ウィルマース・ファウンデーションが邪神と死闘を繰り広げる物語でもある。

旧支配者や彼らに仕える種族といった神話作品の重要な構成要素を、CCD(Cthulhu Cycle Deities;クトゥルー眷属邪神群)という略語で表してしまうところに、この物語の姿勢がはっきり示されている。「忌まわしく名状しがたい」と長々と形容するのではない。畏怖の対象ではなく、効率が支配する領域での調査と研究の対象なのだ。

神秘性をはぎ取ってしまうような描き方は、たしかに「恐怖」を感じさせることはない。しかしラムレイは、そうすることによって「楽しさ」を持ち込んだのだ。先人たちが築いたクトゥルー神話作品の構成要素を組み合わせて、新たな物語を作り出す「遊び」の楽しさ。作者が感じたであろう、そのわくわくするような快楽が、行間から立ち上っている。

さらに、人類を守る秘密組織が密かに邪神と戦っているという設定を導入することによって、陰謀小説らしい色合いも帯びている。そもそもこの分野、ラヴクラフトの「インスマウスの影」や朝松健の『邪神帝国』などに見られるように、陰謀小説的世界観との親和性が強いのだ。

「いいから文章書くのやめて逃げろ」と言いたくなるような形で終わる手記。禁じられた文献からの引用。われわれの常識からかけ離れた奇怪な異種族。そんな手垢にまみれたクトゥルー神話的小道具を組み合わせて作られた、怪奇と妄想のテーマパーク──それがこの作品である。

怪獣総進撃ちなみに、本書のクライマックスとも言うべき第13章「シャッド-メル追撃」のBGMには、『怪獣総進撃』のテーマがよく似合う。
機会があったらお試しください。

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