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アウトローの世界史

歴史
ASIN:4140018747南塚信吾 / NHKブックス

 5年ほど前(1999.12)に刊行された本。「国家から盗って、何が悪い!」という帯の文句が目を引く。

 この本で取り上げられるのは、アウトローの中でも特に義賊。資本主義システムによる近代化に抗う存在としての「義賊」に光を当てて、義賊の側から世界史を読み直そうという試みだ。

 ブルガリアのハイドゥクと呼ばれた人々をはじめとする東欧の義賊たち、ジェシー・ジェイムズやビリー・ザ・キッドといったアメリカのアウトローたち、そしてオーストラリアのネッド・ケリー(ちなみにオーストラリア推理作家協会賞が「ネッド・ケリー賞」だったりする)、ロシアやラテンアメリカの義賊たち。さらには日本の鼠小僧などにも言及している。

 それぞれ「点」として存在しているように見える義賊を、「システム化への抵抗」として結びつけてゆくというスケールの広がりが面白い。

 船戸与一の『夜のオデッセイア』に、ウィスキー・ジョーという陽気なプロレスラーが登場するのを思い出した。ブルガリアのハイドゥク(文中での表記は「ハイダック」)の子孫──そう、この本が取り上げるアウトローの血を引く男だ(彼がどんな人物かは、サントリーの「ウィスキーとミステリーの世界」を見るのがいいだろう)。
 船戸与一を思い浮かべるのは自然な流れだろう。船戸の描く人々もまた、システムに対する抵抗者であることが多い。彼の紡ぐ「叛史」と、本書の著者の視点は、かなり近いところにあるのだ。
世界史を国王や首相を登場させないで描くこと、政党や政治家の名前を出さないで書くこと、大企業やそのグループの活動としてではなく描くこと、ナショナル・ヒストリーの集まりではなく描くこと、そういうことができればいいなと考えて、もう二〇年近くになる。(「あとがき」より)

1421-中国が新大陸を発見した年

歴史
ISBN:9784789732215ギャヴィン・メンジーズ / ソニー・マガジンズ

歴史の専門家の目から見れば、きっと突っ込みどころ満載なのだろう。でも、門外漢としては気軽に楽しめる内容だった。いまどきの本らしく、 http://www.1421.tv/ という公式ウェブサイトもある。

明の鄭和艦隊といえば、アフリカ東岸まで到達したというのが学校で教える世界史での位置づけ。が、実はさらに航海は続いて、アフリカ西岸はもちろん、オーストラリア、南極、南北アメリカ、さらには北極海にまでたどりついていた……というのがこの本の主旨だ。

著者は元イギリス海軍の潜水艦乗りで、「船乗り」の視点から鄭和の航跡を検証してゆく。ピリ・レイスの地図やらビミニ・ロードといったミステリーな存在を、中国人の足跡に結び付けてゆく過程は、素材がはらむ怪しさと重なって、独特の楽しさがある。まあ、ちょー古代文明だのうちゅーじんだのに比べれば、「あれは15世紀の中国人が作ったもので……」という話のほうが受け入れやすいのは言うまでもない。

 ちなみに本書での「論証」は、なぜかヨーロッパ人が作った地図がベースになっていることが多い。当時のヨーロッパの観測技術を超えた地図を作っていたのは、実は中国人だった、というのだ。本書では、記録が中国に残されず海外に散逸した理由を、海外進出派が鎖国派との政争に敗れたことに求めている。明の官僚による破棄を免れた観測記録の断片がヨーロッパへと運ばれ、奇妙に詳しい地図のもとになった、というわけだ。まるで伝奇小説である。

 そんなところからもうかがえるように、この著者、いささか奔放な想像力の持ち主なのである。もっともらしい話だけで留めておけばよいものを、ついつい話のスケールを広げてしまいがちなのだ。北欧からのグリーンランドへの入植者たちが残した、謎の集団との遭遇の記録をもとに、彼らが大西洋から北極海を抜けて帰国した、なんて言い出すあたりはさすがに無理を感じた(が、それだけに読み物としては楽しい)。