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いたって端整な本格ミステリ。
14世紀のロンドン。貿易商が毒殺され、彼と言い争っていた執事が屋根裏で縊死していた。状況証拠は執事の犯行を指しているようだが……。酒好きで大食いの検死官ジョン・クランストン卿と、その書記に任命された修道士アセルスタンが事件の謎を追う。
ネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィンをはじめとするコンビ探偵の系譜に連なる、修道士と検死官の二人組がたいへんよい味を出している。禁欲に生きる身でありながら、教区に住む未亡人を思って悶々としてしまう、まだまだ若いアセルスタンと、欲望に忠実に飲んだり喰ったりの、一見役立たずに見て実は老練なジョン卿。
特にジョン卿のご無体ぶりが素晴らしい。捜査が進展すると(あるいは壁にぶつかると)、アセルスタンを引き連れて居酒屋に飲みに行ってしまう。しかも酔っ払ったまま関係者に話を聞いたり、飲み過ぎて事件現場で寝てしまったり、自分の上司や同僚でなければたいへん好感の持てる人物である。抑えが効かずに飲み過ぎて吐いてしまうこともたびたび(300ページ程度の間に何度吐いているのやら)。とはいえ欲に負けてばかりではない。セックスのあとで、ふと事件の重要な手がかりに思い至り、あわてて服を着て飛び出していったりもするのだ。
巨漢と、頭の切れる青年といえばネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィン。この二人とはだいぶ異なるキャラクターではあるけれど、同じく探偵コンビの行動で読ませるお話、という印象。
欲望の渦巻く猥雑な都会・ロンドンの描写もよい。いたるところに酒場があるように見えるのは、登場人物の行動のせいかもしれないが。
ちなみに、やたらと酒を飲んでやたらと食べるジョン卿の描写を読んでいて、ふと杉江松恋氏を思い出した。
● ふるやま [★ひとつのレビューも増えてきましたね。相変わらず現物は目にしていません……。]
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訳文がものすごいことになっていると話題の一冊。どういうわけか、私の行動範囲内の書店では未だに見つからない。
くだんの訳文に関する意見でいちばん感心したのが、「あの訳文は暗号で、実は極秘情報が隠されている」という仮説(mixi内の記述なのでリンクはしない)。
しかしどんな秘密が隠されているのだろうか。
……というくだらないことしか思い浮かばなかった。実物が手に入らないせいで妄想だけが膨れあがってゆく。まるでチェスタトンの巨体のように。
『チーム・バチスタの栄光』に続く第2作。舞台は前作と同じ病院で、今度は小児科に関わる事件。
謎のつくりは、前作に比べるとずいぶん小粒。緻密だけど地味。ただし、病院というシステムを描きつつ、多彩なキャラクターを巧みに動かして、緊密なドラマを組み立てている。変人官僚・白鳥をも振り回す警察キャリアも登場し、前作で評価されたキャラクター小説としての面が強調されている。
面白く読める作品だけど、今後はもっと謎解き自体の力でひっぱるものも読みたいところ。それにしても、ある意味『マクロス』みたいな話だった。タイトルのダブルミーニングは秀逸。
9/12分へのコメントがあったので……
これまでも、大賞を受賞しなかったけど本になった作品はいくつかありますね。『そのケータイは〜』とか、昨年だとピエロの話とか。で、そういうものは今後もあるんじゃないでしょうか。今年から復活した読者投票も、もしかしたら影響力があるのかもしれません。
(もうちょっと書き足すかもしれません)
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小説ではなく、第二次大戦前半の、ドイツ空軍による英国本土攻撃、いわゆるバトル・オヴ・ブリテンを扱ったノンフィクション。
上巻のおしまい近くまで読んだけれど、まだ戦いについて直接語ることはなく、英独双方の航空機開発史やその運用体制を説いている。ライト兄弟が云々、なんて話が出てきたり、気の長いことである。
ちなみにカーター・ディクスンが『爬虫類館の殺人』に描いているのは、このバトル・オヴ・ブリテンのさなかに起きた密室殺人。ドイツ空軍がおとなしくしていれば、今日あの名作は存在しなかったかもしれないわけで、歴史的にも重要なできごとですね。
うわあ、なんだこれは。
まっとうに事件が起きて、そいつがちゃんと解決されて、その過程で意外な展開にどきどきしたりびっくりしたり、というのをお望みの方にはおすすめしない。
日本神話の研究だとかポール・マッカートニー死亡説だとかフェティシズムとか、さらには唐突に描かれる(本当に唐突だ)女刑事の生い立ちだとかをちらつかされながら、五里霧中の物語をひきずりまわされて、ラストシーンに強行着陸。今もまだ少し困惑している。
楽しかったですよ、ええ。
これから読むもの・読み直すもの
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