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そして粛清の扉を

ミステリ
そして粛清の扉を 黒武洋 / 新潮社

 柳の下でドジョウを探すのを商売の基本とすることのよしあしはさておき、その実例は珍しくない。この本もそんな一冊だ。柳の名前は『バトル・ロワイアル』。

 新潮社の第1回のホラー・サスペンス大賞受賞作である。この受賞は角川のホラー大賞との差別化狙いだとか、内容が内容だけに、少年犯罪の犯人を実名報道しちゃう新潮社ならではだとか、いろいろ下司のかんぐりができる作品でもある。

 娘の死をきっかけに、良心の最後の一線が切れてしまった女性教師が、銃や爆薬で武装して生徒を人質に立てこもる。警察が包囲する中で、生徒を次々と血祭りにあげ、やがてマスコミを使ってある要求を出す……という悪趣味な話だ。

 悪趣味ぶりが最も露骨に出ているのは、生徒の描かれ方。この小説に登場する高校生たちの立場は、極言すればヒロインの教師に「駆除」される「害虫の群れ」でしかない。ひとりひとりの個性がそれなりに描かれていた『バトル・ロワイアル』と比べれば、その違いは明白だ。

 ちなみに、傷をつつけばきりがない作品でもある。特に困ってしまったのは文章。私は「下手な文章」に対してはかなり鈍感ないし寛容だと思うのだが、さすがにこの作品の不可解な表現の数々には戸惑った。せめて次作以降は、もうすこし文章をどうにかしてほしいものである。

 とはいえ、そういうマイナスを補って余りある楽しさがあるのもまた事実。うかつに寝る前に読み始めると、確実に睡眠時間を削ってしまうだろう。今年のベスト級かもしれない(と、2月に言うのはいかがなものか)。こういうものを楽しく読んでいる自分に気づいたとたん、ふと後ろめたさを感じてしまう。そういう感情を起こさせた上で、なおかつ読ませてしまうのはたいしたもの。

 ちなみに、こんな作品がお気に召した方には、ベン・エルトン『ポップコーン』(ミステリアス・プレス文庫)もおすすめ。

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