▼ モルグ街の殺人
【ミステリ】
ミステリの起源、とされている作品である。
年の初めだから、ってわけでもないが、なんとはなしにこれを手にとって読んでみた。
いまどきのミステリに比べれば、おそろしくシンプルな物語である。探偵役のデュパンと語り手の暮らしぶりが紹介され、モルグ街で二人の女性が殺された事件が語られる。デュパンは一度現場を調べて真相を分析し、それを語り手に説いて聞かせる。被害者や証人たちの人物描写などほぼ皆無。デュパンだって単なる推理機械だ。
むしろ、「おはなし」以外のところが興味深い。
たとえば、冒頭での分析的知性に関する講釈。これを「いつも書いてる幻想小説とはちょっと違うぜ!」という熱意のあらわれ、と見るのはうがちすぎだろうか。
あるいは、事件当夜に現場で聞かれた声に関する記述だ。ある証人は、声の抑揚からそれをスペイン語だと言い、また別の証人はイタリア語、あるいはドイツ語やロシア語や英語だと言い、さらにはフランス語だと言い出す外国人まであらわれる始末。大都会としてのパリと、そこに生じる「隣は何をする人ぞ」的なコミュニケーションの断絶を感じさせる。
もうひとつは、この事件の犯人が関係しているので、ちょっと書きづらい。
というわけで、「モルグ街の殺人」を読んだことのない方はここまで。
では、この事件の真相について書いてしまおう。
年の初めだから、ってわけでもないが、なんとはなしにこれを手にとって読んでみた。
いまどきのミステリに比べれば、おそろしくシンプルな物語である。探偵役のデュパンと語り手の暮らしぶりが紹介され、モルグ街で二人の女性が殺された事件が語られる。デュパンは一度現場を調べて真相を分析し、それを語り手に説いて聞かせる。被害者や証人たちの人物描写などほぼ皆無。デュパンだって単なる推理機械だ。
むしろ、「おはなし」以外のところが興味深い。
たとえば、冒頭での分析的知性に関する講釈。これを「いつも書いてる幻想小説とはちょっと違うぜ!」という熱意のあらわれ、と見るのはうがちすぎだろうか。
あるいは、事件当夜に現場で聞かれた声に関する記述だ。ある証人は、声の抑揚からそれをスペイン語だと言い、また別の証人はイタリア語、あるいはドイツ語やロシア語や英語だと言い、さらにはフランス語だと言い出す外国人まであらわれる始末。大都会としてのパリと、そこに生じる「隣は何をする人ぞ」的なコミュニケーションの断絶を感じさせる。
もうひとつは、この事件の犯人が関係しているので、ちょっと書きづらい。
というわけで、「モルグ街の殺人」を読んだことのない方はここまで。
では、この事件の真相について書いてしまおう。
犯人(?)はボルネオで捕らえられ、パリに連れてこられたオランウータンだった。飼い主のもとを逃げ出し、たまたまたどりついた部屋で、居合わせた人を死なせてしまったのだ。
人外魔境から文明の地に迷い込んでしまった怪物。それがこの事件の犯人なのだ(オランウータンが怪物ってのもどうかと思うが、なにしろこの作品のオランウータンは実物よりはるかに凶暴である)。
せっかく冒頭で分析的知性の話をしたのに、秘境の怪物かよ! なんてツッコまれそうだ。でも、怪物の存在が明らかになったのは、分析のなせるわざである。
「モルグ街の殺人」はふつう謎解きミステリの開祖とされているけれど、この作品の遺伝子は別のジャンルにも受け継がれている。そう、ある種の怪獣映画や、怪物もののホラーだ。これらの作品では、冒頭でいくつかの怪事件が起きる。それらは怪物出現の予兆であり、登場人物がその存在をかぎつけて、退治に乗り出すことになる。
「モルグ街」での怪物退治のプロセスはわずか一文程度で済まされているが、怪物発見までのプロセスは、後の怪物ホラーに通じるものがある。
おっと。モルグ街の怪物に、直系の子孫がいるのを忘れていた。人外魔境の地で捕らえられ、大都会へと連れてこられた類人猿。それが、脱走して女性をかっさらって大暴れ──そう、『キングコング』だ。
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