■貴重な完結作
を立て続けに読む。ちなみに、どちらも妻を殺された夫が事件を追うという物語だ。
前者はこれまでのダイヤモンド警視ものを何冊か読んでからのほうがいいだろう。
後者はおすすめ。ル・カレって、ソ連が崩壊してからのほうが、筆捌きが奔放になってきたような気がする。
ラヴゼイは『最期の声』で、ダイヤモンド警視に、ル・カレの作品の登場人物はみんな遠回しな喋り方をする、てなことを言わせている。読みながら思わず笑ってしまったのだが、確かにそのとおりだ。でも、近年のル・カレの作品は、そういう婉曲さを保ちながらも読みやすさを増しているように思う。『パナマの仕立屋』みたいな愉快な話を書くル・カレなんて、少なくともジョージ・スマイリー三部作からは想像しにくい。
ところで、日本でル・カレみたいなスタイルで書きたがる作家といえば思い浮かぶのが佐藤大輔。『東京の優しい掟』
は、日本の防衛関係者のお話を、あろうことかジョージ・スマイリー三部作を模したと思しきスタイルで書いてしまった作品だ。登場人物がみんなものすごく回りくどい喋り方をするので、話の展開を理解するのにとても苦労した記憶がある。
この人のシリーズもので一番優れているのは『征途』だろう。ちゃんと完結している、という点だけでも、他のシリーズにはない大きなアドバンテージだ。