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2004年4月の日記

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2004/04/17(土)

日常

『これだけは知っておきたい名作ミステリー100』

という本の原稿を書いていた。初心者向けに、古今東西の名作100作を紹介したミステリーのブックガイドである。

夕方ミス連に行ったところ、同じくこの本の執筆者である千街晶之さんや川出正樹さんがいたので、どんな原稿を書いたか、なんてことを話した。

ちなみに私の分担は以下の四冊。

  • 『裁くのは俺だ』ミッキー・スピレイン
  • 『マルタの鷹』ダシール・ハメット
  • 『飢えて狼』志水辰夫
  • 『野獣死すべし』大藪春彦

 非常にわかりやすいハードボイルド野郎になっている。これで『野獣死すべし』がニコラス・ブレイクだったりすると、それはそれで面白いのだが。事故が起きるぜ! 日記つけるぜ! 犯人探すぜ東へ西へ……というのはまた違うブレイクなので要注意。

千街さんの担当分も傾向がはっきりしていた。川出さんの場合、氏の好みを知る人には大変わかりやすい分担なのだが、読者の方々はそんなことを知るはずもないので、なんだか不思議なラインナップに見えることだろう。

ちなみに20人に及ぶ執筆者に担当作品を割り振ったのは杉江松恋さん。詳細は http://homepage3.nifty.com/sugiemckoy/diary/200404-1.html#20040421 をご覧ください。

2004/04/16(金)

日常

一ヶ月近く、

異常に忙しい日々が続いた。心身ともにヨレヨレ。

夜遅くになって、とある約束を忘れていたことを知る。関係各位には大変ご迷惑をおかけしました。まことに申し訳ございません。

地下鉄ジャック

ホラー
ジョー・R・ランズデール/教養文庫「バットマンの冒険1」所収

バットマンと謎の連続殺人鬼の死闘を描く。月光の印象が色濃く残る一編。

テキサス・ナイトランナーズ」にでてくる〈剃刀神〉って、この短編に出てくる〈剃刀神〉と同じものだろうか。少なくとも描写はよく似ている。

地の果てから来た怪物

SF
マレー・ラインスター / 創元SF文庫

 舞台は南極基地との中継拠点となっている荒涼とした孤島。南極基地からの飛行機が謎めいた不時着をして、乗員は全員死亡。そして、島に駐在する隊員たちも、何物かに生命を脅かされる……。

 舞台が舞台だけに、どうしても『遊星よりの物体X』 や『遊星からの物体X』 、あるいはその原作「影が行く」なんぞと比べたくなってしまう。どうしても、サスペンスという点では見劣りしてしまう。怪物の(生い立ちはともかく)正体もわかりやすい。

 でも、けっこう面白く読めてしまう。

 というのも、これは怪物の正体と対処法を解き明かすミステリとして構成されているからだ。現象をもとに仮説を立て、それが破れると新たな説を立てる。そうするうちに怪物の正体とその生い立ちがじわじわと浮かび上がる……のだが、別にこわくないのはやっぱり難点か。

 こういう話で人物描写を云々することにあまり意味があるとは思えないが、ひとつおもしろい記述があった。ある女性に思いを寄せる若者が登場するのだが、彼は彼女が自分よりも年上なので「不釣り合い」だとあきらめてしまうのだ。いったい何歳違うのかと思えば、せいぜい4歳程度の差だったりする。書かれた年代を割り引いてもちと極端な気がした。

 ちなみにこの23歳の女性は、孤島に置かれた基地の長官の秘書を務めている。で、この長官というのがいわばヒーロー役で、彼女と相思相愛だったりする。いっそすがすがしいくらいにおっさんの願望充足な話でもあるわけだ。

 ええと、何の話だ? 孤島で怪物が暴れる小説について書いてたはずなんだが。

バットマン/サンダーバードの恐怖

ホラー
ジョー・R・ランズデール / 竹書房文庫

 バットマンを題材にした小説はいろいろな作家が書いていて、『バットマンの冒険』なんてアンソロジーもある。中でも興味深いのが、作家の個性が出ている作品だ。児童虐待をテーマにして書き続けるアンドリュー・ヴァクスの『バットマン 究極の悪』では、バットマンの敵はもちろん児童売春で、すてきな本格ミステリの短編を山ほど書いているエドワード・ホックの場合は、バットマンが謎解きに挑むといった具合。

 そういう意味では、この『バットマン/サンダーバードの恐怖』もまた、ランズデールの色が濃く浮き出ている。深夜、人々を轢き殺す謎の車。それは往年の名車、サンダーバードだった。車の運転手の正体を探るバットマンをあざ笑うかのように、サンダーバードは次々と死をもたらす。自動車が決して入ることのできない密室の中にいても、逃れることはできない……。

 短い物語の中に印象を焼き付ける登場人物たちもさることながら、犯人の正体も忘れがたい。実はとてつもなく手垢のついたネタだったりするのだが、その換骨奪胎ぶりは実に巧妙。ひき逃げ犯人の正体が明かされる場面の描写は、シュールでありながら異様な生々しさを感じさせる。
 生々しさといえば、ところどころに見られるスプラッタ描写は、やはりスプラッタパク・ムーブメントの中にいた作家ならではのものだ。

 ところで『バットマン』といえば、都会の闇の印象が強い。が、本書で主に描かれるのは郊外の暗闇、あるいは原野の暗闇だ。その闇の中から襲いかかるのは、文明の象徴ともいうべき自動車なのだが、これが強烈なまでに野生の匂いを放っている。

 文明の姿をした野生という二面性は、バットマンの持つ二面性--不吉な姿をした正義の味方--にも重なる(そういえばバットマンの宿敵には、二面性を体現するかのようなトゥーフェイスなんてのもいる)。そして、結末ではアメリカという国の二面性も浮かび上がる--と読んでしまうのは、いささか思い込みが過ぎるというものだろうか。

 また、本書での暗闇の扱いは、『ボトムズ』に描かれる森の暗闇の扱いにも似ているような気がするが、それについてはまたの機会に。

 ちなみに、ランズデールがバットマンを描いた作品はほかにもある。前述の『バットマンの冒険』に収められた短編、「地下鉄ジャック」だ。こちらも異様な秘密を抱えた連続殺人者を描いた物語で、華麗な邪悪さとでも言うべきものを感じさせる、熱気に満ちた文体が印象に残る。