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バットマン 究極の悪

ミステリ
バットマン 究極の悪 アンドリュー・ヴァクス / 佐々田雅子訳 / 早川書房

 バットマンことブルース・ウェインがたまたま知り合ったソーシャルワーカーの女性・デブラ。彼女を通じてバットマンはゴッサムの街を蝕む悪の一つ、児童虐待のことを知る。さらに児童虐待問題を追ううち、彼は両親の死に絡む謎、そして巨大な児童売春組織を追うことになる……。

アウトロー探偵バークのシリーズで知られるヴァクスが、アメリカのヒーローを語る上で欠かせない存在・バットマンをヒーローに据えて、彼の一貫したテーマである児童虐待問題を取り上げた作品。

バークというアメコミ風の要素もあるダークなヒーローを描いてきただけあって、バットマンというもう一人のダークなヒーローを描く腕前はなかなかである。ストーリーも、シンプルながらゴッサムから東南アジアの架空の小国へと展開し、なかなか読みごたえがある。

 なお、巻末には児童虐待問題に関する短い文章と、市民団体の連絡先が掲載されている。そう、ヴァクスは本気なのだ。実際、彼の本業はこの問題を専門に扱う弁護士なのだから。

 そして、この「問題意識の過剰なまでの強さ」こそが、ヴァクスが「娯楽作家」に徹し切れない一因でもある。彼の小説には必ずといっていいほどこの問題が取り上げられ、その問題意識の強さゆえに、児童虐待問題についての記述が物語を侵蝕してしまう。まるで島田荘司が日本人論と冤罪の話をせずにはいられないように。

 簡単に言ってしまえば「説教臭い」のだ。初期の作品では、その説教臭さを物語の力で覆い隠すことができた。だが、シリーズを重ねるうち、どうしても説教臭さが鼻につくようになってくる。

 ヴァクスという作家、腕前は確かなのだから(たとえば、この人の短編はノワール風の翳りを帯びた、どこか幻想的な美しさに満ちている。短編集があればぜひ邦訳希望)、自身の問題意識をもっと洗練させた形で作品に描きこんでほしいのだが……

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