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マンハッタン狩猟クラブ

ミステリ
ASIN:4167661594ジョン・ソール / 文春文庫

 都市の地下でひそかに繰り広げられる「人狩り」ゲーム。そこに、標的としてほうり込まれてしまった男の物語。

 主人公のジェフは、身に覚えのない殺人で有罪判決を下された青年。投獄の直前に拉致された彼が連れてこられたのは、ニューヨークの地下だった。彼は「ゲーム」に参加させられたことを知る。ジャガーという男とコンビで、彼らを追う完全武装の狩人たちから逃げるのだ。だが、ジェフは知らなかった。相棒のジャガーが、仲間に異常な愛情を抱く猟奇殺人者であることを……。

 ニューヨークの地下。下水道や閉鎖された地下鉄のトンネルや駅には、地上とは別のコミュニティが築かれていた--というのは、絵空事ではなさそうだ。ニューヨークの地下生活者を扱った『モグラびと』というノンフィクションもある。

 都会の地下は人跡未踏の大洞窟ではない。地下のコミュニティは地上のそれとは別物だが、隔絶されているわけでもない。すぐそこにある異世界なのだ。

 あなたの足元に、あなたの思いもよらない世界が広がっている。そんな「不可視の領域」に関する空想は、何者かがこの社会を裏からコントロールしている--という陰謀論とも相性がいい。こちらは「不可視」というより「吹かし」であることが多いのだが。

 そう。これはすぐれた地底小説であるだけでなく、陰謀小説でもある。ゲームを仕掛けた黒幕の素性をみるがいい。その名前も、陰謀論の世界ではおなじみ、ジョン・コールマンの著作に登場する組織名をヒントにしているようだ。

 異様な世界での人狩りゲームを、さらに異様なものにしているのが「相棒」のジャガー。ジェフにとっては謎めいた仲間、しかし実は猟奇殺人者。狩人から逃げ惑う過程で、ジャガーは徐々に牙を剥く。追跡劇のスリルに殺人鬼のサスペンスが重なり合い、緊張はクライマックスまで途切れることがない。

 ジョン・ソールといえば、子供がひどい目に会う陰鬱なホラーの書き手として知られている。こんなスピーディなスリラーを発表するのは少々意外ではあるが、まあ20年も子供いじめてきたんだから、そろそろ違うことをやりたくなるのも無理はない。

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