▼ 北米探偵小説論
【評論】
野崎六助 / インスクリプト
3000枚に及ぶ大著。『20世紀冒険小説読本【海外篇】』は小説を通して歴史を見る本だが、こちらは歴史を通して小説を見る。といっても、折々の社会事象が小説にどのように反映されたか、という単純な話ではない。
いわば、探偵小説という形式から見たアメリカ文学論でもあり、日本ミステリ、在日朝鮮人文学と言った領域にも話題は広がってゆく。
「北米探偵小説論」と名付けられているものの、ときとしてそれは「北米」からも「探偵小説」からも逸脱して、たとえばアメリカ共産党の日系党員の話や、野坂参三スパイ説にページが費やされる。ただし、それらは決して本論と無関係ではない。
前半の主役は二人。ヴァン・ダインとダシール・ハメット。特にヴァン・ダインにはかなりのページを費やし、彼の作り上げたもの、本当に作ろうとしていたもの、そして後継者たちが引き継いだものが語られる。こうしてみると、確かにアメリカのミステリにおける彼の役割は重要だったのだろう。とはいえ、今ではやっぱり「資料的価値」の強い作家だと思うので、無理に全作を読むこともないと思う。
繰り返されるのは、様式の確立と、そして様式を生み出した作家自身がその様式に縛られる過程だ。ヴァン・ダインも、ハメットも、チャンドラーも、ロス・マクドナルドも、自らの作り上げた様式に囚われてしまう。本書の終わり近くで批判される、ハリウッド映画的なジャンルミックス型作品もまた、そうした「様式」の一形式なのかもしれない。
ある様式に則って書き続けること自体は、一向に差し支えない。だが、「様式に則って何かを書く」のではなく、「様式を書く」状態になってしまった場合は、作品からは輝きが消えてしまうだろう。アンドリュー・ヴァクスの近作のように。
3000枚に及ぶ大著。『20世紀冒険小説読本【海外篇】』は小説を通して歴史を見る本だが、こちらは歴史を通して小説を見る。といっても、折々の社会事象が小説にどのように反映されたか、という単純な話ではない。
いわば、探偵小説という形式から見たアメリカ文学論でもあり、日本ミステリ、在日朝鮮人文学と言った領域にも話題は広がってゆく。
「北米探偵小説論」と名付けられているものの、ときとしてそれは「北米」からも「探偵小説」からも逸脱して、たとえばアメリカ共産党の日系党員の話や、野坂参三スパイ説にページが費やされる。ただし、それらは決して本論と無関係ではない。
前半の主役は二人。ヴァン・ダインとダシール・ハメット。特にヴァン・ダインにはかなりのページを費やし、彼の作り上げたもの、本当に作ろうとしていたもの、そして後継者たちが引き継いだものが語られる。こうしてみると、確かにアメリカのミステリにおける彼の役割は重要だったのだろう。とはいえ、今ではやっぱり「資料的価値」の強い作家だと思うので、無理に全作を読むこともないと思う。
繰り返されるのは、様式の確立と、そして様式を生み出した作家自身がその様式に縛られる過程だ。ヴァン・ダインも、ハメットも、チャンドラーも、ロス・マクドナルドも、自らの作り上げた様式に囚われてしまう。本書の終わり近くで批判される、ハリウッド映画的なジャンルミックス型作品もまた、そうした「様式」の一形式なのかもしれない。
ある様式に則って書き続けること自体は、一向に差し支えない。だが、「様式に則って何かを書く」のではなく、「様式を書く」状態になってしまった場合は、作品からは輝きが消えてしまうだろう。アンドリュー・ヴァクスの近作のように。
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