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家守

ミステリ
歌野晶午 / カッパ・ノベルス

「家」に対するオブセッションをテーマにした5編を収録。

世間で評判の『葉桜の季節に君を想うということ』はどうにも物足りなかったのだが、こちらは楽しく読むことができた。

収録作

人形師の家

島田荘司の推薦で世に出た作者だが、その推薦者の「血筋」を感じさせる一編。仕掛けだけ抜き出して説明すると実に馬鹿馬鹿しい話ではあるのだが、脇を支える物語の持つネガティヴな空気と、人形そのものが持つ不気味さとが重なって、独特の雰囲気を作り上げている。

家守

同時期デビューの綾辻行人らに比べるとミステリマニアらしさを感じさせない作者だが(実際、マニアではないのだろう)、この作品の密室はカーター・ディクスンの某作品を強く連想させる。ただし残念ながら、この密室の謎解きが「家」そのものの秘密とリンクしておらず、しかも「家」の秘密も長年隠し通せるものとは思えず、演出不足の印象をぬぐえない。表題作ではあるが、5編の中では一番見劣りしてしまう。

埴生の宿

5編の中では最も気に入ったのがこれ。物理的な仕掛けが、登場人物の「家への妄執」と強固に結びついていて、ちょっとした戦慄を感じさせる。稚気あふれる仕掛けが存在しうるシチュエーションを考えた結果生まれた物語にも見えるが、どこかフィリップ・K・ディックの短編に通じるものがある。

西日本の山奥、住人のほとんどが二つの家のどちらかに属している--となると両家の対立なんぞを期待しがちだが、そんなこともなくのんびりした平和な村が舞台。明かされる真相も人情話めいているのだが、どこか背筋を冷たくさせるものがある。「埴生の宿」に次いで、本書で気に入った作品。

転居先不明

作中に語られる二つの事件が、内容的にまったくつながっていないという弱点は表題作と同じ。ただしそれが不満につながらないのは、内容とは別のかたちで二つが関連づけられているからだ(そのせいで構成はぎくしゃくしているのだが)。それに加えて、典型的ではありながらも鮮やかなしめくくりも好印象。

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