▼ 2006/09/06(水)
■[読了]聖戦の獅子 / トム・クランシー&スティーヴ・ピチェニック
オプ・センターシリーズの第九作。もともとクランシーの看板を頼りにして始まったシリーズだけど、今ではこっちのほうがクランシー単独名義のものよりも面白い。丁寧な仕事で読ませる作品だ。
舞台はボツワナ。カトリック神父が武装集団に誘拐される。彼らの要求はキリスト教聖職者の国外退去。窮地に立たされたヴァチカンは、アメリカの国家危機管理センター、通称オプ・センターに助けを求める……という物語。
作中のヴァチカンは、予想外の事態に備えて、いざというときにスペインから軍事面での援助を受ける協定を結んでいる。そんなわけで、本書にはスペイン軍特殊部隊が登場する。
そのことには何の問題もないのだが、まさかの時に法王のために戦うスペイン人というと、どうしてもモンティ・パイソンの「スペイン宗教裁判」を思い出してしまうのだ。
もちろん、本書のスペイン軍特殊部隊は赤い服など着ていない(はずだ)し、おばあちゃんにクッションを押し当てたりもしない(はずだ)。武器だってちゃんと数えられる(はずだ)。
▼ 2006/08/28(月)
■しばらく中断していると
再開までがなかなか面倒で……
■[読了]数学的にありえない / アダム・ファウアー
追っ手から逃れる主人公は、自分でもわけの分からないまま、なぜか線路にポテトチップをばらまく。その後の思わぬ展開に息をのんだ。
個々の素材は、どこかで見たようなものばかり。でも、それらを組み合わせると、見たことのない光景が見えてくる。
第一部は「偶発的事件の犠牲者たち」。偶然によって大きく運命が変わってしまった登場人物たちが描かれる。
- ケインは驚異の暗算能力を誇る数学者。ただし今はギャンブル狂い。ポーカーで大勝負に出たところ、確率的にありえない相手の手に敗れてロシアン・マフィアに多額の借金を負ってしまう……。
- 外国に機密情報を横流ししていた諜報部員。信じがたい手違いのため、彼女は北朝鮮の工作員によって窮地に追い込まれる……。
- 政府の研究機関。インサイダー取引で私腹を肥やしていた男は、突然立場が危うくなる。彼が弱みを握っていた上院議員が、突然に死亡したのだ……。
- ずっと同じ番号でくじを買い続けてきた男。彼は、その日とうとう大当たりを引き当てた……。
……といった登場人物たちの運命が交錯し、やがてケインは秘密の研究をめぐる陰謀に巻き込まれ、強大な敵に追われることになる。
これだけだったら、よくあるサスペンス。だが、「秘密の研究」がサスペンスの演出にも影響を与えているのがこの作品のユニークなところ。「秘密の研究」と関わったケインは、ある特殊な認知能力を身につけて、他人とはちょっと違った仕組みで世界を認識できるようになる。
この特殊能力が物語の鍵。このおかげで、ケインの行動パターンは、通常のサスペンスの主人公とはずいぶん変わったものになっている。さらには、通常では伏線にならないような要素までが、意外な伏線として作用する。
追跡劇の盛り上げ方と、根底に流れる前向きな姿勢はディーン・クーンツといったところ。ケインが新たな世界認識を得る様子はグレッグ・イーガン風味。そして、全編をささえる論理のアクロバットは、さしずめエラリイ・クイーン。
味わったことのない興奮を味わえる。
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アインシュタイン・セオリー
Bookstack マーク・アルパート(著), 横山 啓明 (翻訳) 科学史家デイヴィッドの恩師が何者かに襲撃され、謎めいた番号を言い残して死んでしまった。FBIはなぜかデイヴィッドを捕らえて尋問する。このときから、デイヴィッドは強大な破壊力を実現する物理理論の争奪戦に巻き...