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2009/11/22(日) ミステリマガジンと年間ベスト

ミステリ
ミステリマガジン1月号と『ミステリが読みたい! 2010年版』が届いていた。

ミステリマガジン新刊評で取り上げたのは:
……の4作。
『ブリムストーンの激突』は簡潔なスタイルが魅力のウェスタン。『オッド・トーマスの受難』は作者得意の「ただ○○するだけ」のお話。『黄昏の狙撃手』はハンターの旧作に比べるとだいぶゆるい作品だが、難しいことを考えずに豪快にぶちかますスタイルもまた楽しい。

『ミステリが読みたい! 2010年版』は、類似の年末ベストとの差別化を図って、大幅に形式を変えている*1。取り上げる作品数も多い。
他の年間ベストに比べ、アンケート回答がきわめて面倒なので、回答者には主旨をよく説明した方がいいかも……と思っていたが、現物を見せた方が早そうだ。

ちなみに、あるマヌケ*2な理由により、私のコメントは載ってません。反省……。

*1 : 参考にしたのはこれの形式

*2 : 言うまでもないが、マヌケだったのは私で、早川書房ではない

時限捜査

ミステリ
ASIN:4488269036ASIN:4488269044 ジェイムズ・F・デイヴィッド / 公手成幸訳 / 創元推理文庫

予備知識のない状態で読むことをおすすめしたい。
下巻末尾の解説も、致命的なネタばらしをしているわけではないが、読むのは本編読了後にした方がいいだろう。他の新刊案内、あるいは書店で現物を見て気になっていた方は、ここから先も見ない方がいいかもしれない。

アメリカ西海岸の都市、ポートランド。事故で娘を失って、酒浸りから復職した過去を持つ刑事が、幼児ばかりを狙う連続殺人者を追う。その捜査の過程で、奇妙な人物の存在が浮かび上がる。どこからともなく現れては人々に注意を促し、時には事故や事件を未然に防いで人々を救う青い肌の男。この男と殺人者にはどんなつながりが……?

殺人犯を追う刑事の捜査を描いたスタンダードなミステリ……と思ったら、強烈な展開が待ち受けている。帯や裏表紙ではやたらと「家族の絆」みたいなテーマを強調している*1が、確かに間違いではない。主人公はもちろん、中盤から登場するヒロインも、そしてそれ以外の人物も、家族やそれ以外の何かを失った過去を抱えている。喪失感といかに向き合うかというテーマは、無茶な仕掛けの存在にも揺さぶられることのない、本書の大きな柱だ。

ちなみに、この作品の刊行と同じ2009年7月には、別の作家の『無限記憶』という本も出ていて、これは『時間封鎖』という作品の続編。題名が漢字四字で創元の本、という以外は特につながりもないはずだが、なぜか紛らわしい。

*1 : おそらく、無茶な仕掛けの存在を予感させないための心配りだろう。

ミレニアム2 火と戯れる女

ミステリ
スティーグ・ラーソン / 早川書房

 送っていただいた見本を読了。
 今回はすぐれた調査能力を持つヒロイン、リスベット・サランデル自身の事件。彼女が殺人事件の容疑者として追われ、しかも事件には彼女自身の過去にまつわる秘密が関わっていた。

 彼女の生い立ちについては前作でもある程度触れられていたが、今回はさらに衝撃の事実が明かされる。本筋と直接関係ないのに妙にたっぷり書き込んでるな……と前作を読んだときに思ったのだが、今回につなげるためだったようだ。そういえば本書でも、意味ありげに提示されながらそのまま回収されなかったエピソードが残っているが、これもやはり次で回収されるのだろうか。
 優等生ジャーナリストのブルムクヴィストと、はみ出し者のサランデル。対照的な二人の主人公だけでなく、捜査に当たる刑事たち、さらには敵役の異様な面々と、登場人物の造形は相変わらず鮮やか。キャラクターが確立されているからこそ、クライマックスの衝撃も効いてくる。

 この作品に描かれる事件の背後には、スウェーデンと外国との関わり方がある。時代は違えどシューヴァル&ヴァールーや、あるいはほぼ同時代のヘニング・マンケルにも似た匂いが漂ってくる。

 おそらくはあのエピソードが回収されるであろう第三部も楽しみ。

未完のモザイク

ミステリ
ASIN:4576090046 ジュリオ・レオーニ (著), 鈴木 恵 (翻訳)

中世のフィレンツェを舞台に、執政官のひとりに任じられた詩人ダンテが探偵役を務めるミステリ。
モザイクの名工が殺された謎を解く物語だが、印象に残るのは事件の捜査そのものよりも、フィレンツェに蠢くいくつもの陰謀。怪しげな学者たちが町の酒場に集い、エキゾチックな踊り子もなにやら秘密を抱えているようで、さらには異端の信奉者が暗躍し、ローマ教皇庁がなにやら企んでいる……という、不穏な気配が物語の魅力を生み出している。

終盤に見られる大風呂敷の広げっぷりもなかなか凄い。クライブ・カッスラーかと思ったよ。
詳しくは2月末刊行のミステリマガジン4月号で。

アインシュタイン・セオリー

ミステリ
ASIN:4150411891 マーク・アルパート(著), 横山 啓明 (翻訳)

科学史家デイヴィッドの恩師が何者かに襲撃され、謎めいた番号を言い残して死んでしまった。FBIはなぜかデイヴィッドを捕らえて尋問する。このときから、デイヴィッドは強大な破壊力を実現する物理理論の争奪戦に巻き込まれてしまったのだ。
その理論の生みの親はアインシュタイン。彼は生前ひそかに統一場理論を確立していた。だが、理論の悪用を恐れたアインシュタインは、愛弟子の手を借りてその理論を封印してした。そして今、その理論を手に入れようとする者たちが動き出す……。

悪用されたくないなら書き残すなよ、とアインシュタインに突っ込みたくなるような話だが、冒頭から山場の連続で、最後まで飽きることなく読めた。序盤でおもちゃの水鉄砲ひとつで身を守る場面や、自閉症の少年が愛するゲームをはじめ、脇役や小道具の使い方は巧妙。

ただし、前述したような突っ込みどころが目立つのも確か。さすがに、単なる物理法則であればいずれ誰かが再発見してしまうのでは……というところについては一応回答らしきものが用意されていた(これがニコラ・テスラの謎の発明品だったりしたら、もっと再現も難しくなるのだが)。また、論文の隠し方も気になる。どうせ隠すなら、愛弟子もよく考えて隠し場所を選ぶべきだと思った(後から明かされる「バックアップ」の存在はむしろ巧妙なのだが)。

とはいえ、いわゆるジェットコースター風サスペンスとしては十分に楽しめる作品だ。
欲を言えば、せっかく物理理論を話の核に持ってくるのであれば、こんなマクガフィンみたいな扱いではなく、『数学的にありえない』くらいに物語の展開と不可分になっていれば……と思う。