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狼のゲーム

犯罪小説
ASIN:4270102640 ブレント・ゲルフィ (著), 鈴木 恵 (翻訳)

現代ロシアを舞台にした犯罪小説。主人公はチェチェン紛争で片足を失った元軍人、今ではマフィアの一員。幻の名画を奪い合う大物同士の暗闘に巻き込まれ、政治家たちも関わるロシアの暗黒社会で,生きるか死ぬかの闘いを繰り広げることに……。

ソ連の崩壊は、冒険小説やスパイ小説の便利な敵役を消し去ってしまったかもしれない。だが、代わりに腐敗と暴力のワンダーランドを生み出した*1。書いているのはロシア人ではなく、他国の作家たち。フリーマントルの最近の作品をはじめ、フィリップ・カー『屍肉』、ロビン・ホワイト『永久凍土の400万カラット』、ジェームズ・ホーズ『腐ったアルミニウム』とか。当のロシア人はあまり愉快な気分ではないと思うが、今や暗黒ロシアはこの手の小説の有望な舞台になっている。

主人公もその恋人も敵役たちも平気で人を殺すような連中ばかりで、暴力描写はけっこう凄惨。暗黒ロシアという不穏な舞台の生々しい描写も加わって、過酷な緊張感が全編に漂っている。

*1 : もちろん、実際のロシアがどうかは知らない。怪しげな事件はいっぱい起きているようだが。

ギャングスタードライブ

犯罪小説
ギャングスタードライブ 戸梶圭太 / 幻冬舎(→幻冬舎文庫

 ダンサーくずれの女・敏子に、母の旧友・麗子が持ち込んだ依頼。それは、麗子の別れた夫のもとで暮らしている彼女の娘・理沙を誘拐することだった。押し切られるようにして依頼を請け負った敏子は、幼な馴染みでヒモ暮らしの男を相棒に、誘拐計画に臨む。しかし、彼女の別れた夫・小笠原は、暴力団の組長なのだ……。

 誘拐犯と暴力団のカーチェイス。随所にはさまれたヒネリのきいた展開。描かれる家庭像は現代的ではあるが、でもそれを深刻な面持ちで語るようなことは決してしない。どこかヘンなキャラクター同士の絡み合い(誘拐される少女と大薮春彦マニアのやくざは強烈な印象を残す)に、最後の最後まで先の読めない展開、そして変に湿っぽくならない筋運びには好感が持てる。「和製タランティーノ」というたたき文句もなかなか的を射ているのではないだろうか。私はエルモア・レナードをふと思い浮かべた。

 それはさておき、こういう小説でのストーリーのひねりは、謎解きミステリの解決部分に相当すると思う。序盤のシチュエーションからどんどん思わぬ方向に転がってゆく物語を楽しむためには、転がる方向を知らないでおくに越したことはない。

 だから、この本の帯には問題がある*1。中盤以降の展開をいろいろと書いているので、物語が思わぬ方向に転がってゆくという楽しさが減ってしまうのだ。人物紹介に徹するのならまだしも、内容に無闇に言及するべきではないだろう。

 『永遠の仔』を読んだときにも思ったのだが、幻冬舎はミステリの装丁に関する配慮がかなり欠けているような気がする。今後幻冬舎のミステリを手にとるときは、帯や表紙にはあまり目を通さないようにしなければ。

 もちろん、作品自体は非常に楽しく読むことができた。できれば、ハードカバーよりは文庫本で読みたい一冊。

*1 : 2008/01追記:ちなみにこれは単行本のときの話。文庫がどうだったかは知らない。