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レインボーズ・エンド

SF
ASIN:4488705057ASIN:4488705065 ヴァーナー・ヴィンジ / 赤尾秀子訳 / 創元SF文庫

 読んだのはしばらく前のことではありますが。

 2030年代。サッカーの試合に流れたCMは、実は人間をマインドコントロールするための秘密兵器だった……なんて謀略から始まって、「ウサギ」と呼ばれる正体不明のハッカーが日欧印の情報機関と接触し……という展開に、すっかり近未来エスピオナージュを期待してしまったのだが、読んでみたら全然違った。

 物語の中心にいるのは、画期的治療法によってアルツハイマー病から回復した75歳の詩人。いわば過去からやってきた人物である。そんな男が、再び社会に馴染むための教育を通じて、ネットとユビキタス・コンピューティングが激しく発達したびっくり新世界に触れていく様子が語られる。かつての気難しい偏屈爺が徐々に変わっていくというおまけつき。

 作中、大学図書館の蔵書を裁断してスキャンするというリブラレオーメ計画なるものに対して、激しい反対運動が巻き起こる。しかし、なんでもデジタル化するのが当たり前というご時世で、そんなに反対運動が盛り上がるものだろうか、と疑問に思った。

裁断が反発を招くのなら、こんなのを使えばいいのに……

もっと小さくて場所をとらないものなら、私も1台ほしい。
  • 2009-07-18 Bookstack 古山裕樹
     数年前から、ScanSnapというドキュメントスキャナを使っている。先日、最新機種に買い換えた。スキャン速度がかなり上がっていて、大量にスキャンする身としてはかなり便利。 何をスキャンするのかというと、部屋に溜まった本や雑誌だ。空間のコストもバカにならな...

金星のZ旗

SF
吉岡平 / ソノラマ文庫

 『火星の土方歳三』が面白かったので、同趣向の第二弾にあたるこちらにも手を出してみた。日露戦争時の日本海軍の参謀・秋山真之が金星(もちろんバローズの描いた金星だ)に行き、大平原を駆ける陸上艦隊を率いて戦う。

 作者はバローズの金星シリーズに強い思い入れがあるそうで(陸上戦艦が出てくるからだ)、『火星~』よりも先にこちらを書きたかったらしい。

 ……が、できばえは『火星~』には遠く及ばない。

 主人公の設定がその一因だろう。新撰組副長ならばともかく、秋山真之は日本海軍参謀というデスクワークの人なので、こういう冒険活劇にはあまり向いていない。クライマックスの陸上艦隊戦が数少ない見せ場だけれど、あとがきで明かされる作者の思い入れのわりには描写も分量も控えめだ。

 ほかには、現実に密着しすぎたひねりのない風刺(アリコ国とパンジャ国なんてのが出てくる。パンジャ国の指導者の描写は露骨に小泉純一郎をなぞっている)、「火星」に比べ乏しいディテールの描写など。ちなみにこれは、バローズの原典にも見られる欠点である。あとがきを読むかぎりでは、作者もそれに気づいていたのではないか。

 作者は本当に金星シリーズが好きなのだろう。原典のまずい部分まで忠実に再現してしまう。これは偽りのない愛だ。惚れてしまえばあばたもえくぼ。ダメなところもいとおしい。ただし残念なことに、読者がその愛を共有できるとは限らない……。

火星の土方歳三

SF
吉岡平 / ソノラマ文庫

 手に取ったきっかけは、この強烈な題名だった。火星の土方歳三。志茂田景樹の怪作『戦国の長嶋巨人軍』と同じ形式である。

 五稜郭で戦死した土方歳三が、バローズ描くところのバルスーム──火星に転生するというお話。史実でも刀振り回していた土方歳三にとっては似合いの舞台だろう。

 「捕らわれた牢獄の中で力強い味方に出会う」なんてのをはじめ、バローズがよく使っていたパターンを再利用して話を組み立てている。舞台が似通ってるだけじゃなくて、ストーリーにも「らしさ」が生まれている。新撰組のエピソードとして伝わっている話をアレンジして取り入れてみたり、細かい工夫も行き届いている。「火星シリーズ」という原典を踏襲しながら密着しすぎない、バランスの取れた作品だ。

 舞台と主人公がしっくり馴染んでいるおかげで楽しく読めた。題名からすると際物に見えるけど、『戦国の長嶋巨人軍』と一緒にしてはいけない(『戦国の~』は楽しいと言えば楽しいのだが、際物以外の何者でもない)。

※2008/01/03追記:いま試しに『戦国の長嶋巨人軍』のリンク(amazon行き)をクリックしてみたら、\6500~\7000という気が狂ったような値段が付いていた。戦国で長嶋で巨人軍なわけだが、よく考えてほしい。

パーフェクト・コピー

SF
ASIN:4591083500アンドレアス・エシュバッハ / ポプラ社

イエスのビデオ』の作者によるジュブナイルSF。

ヴォルフガングは15歳。親にいわれるままにチェロの練習に励んでいたが、ある日「これは本当に自分のやりたいことなんだろうか?」という疑問を抱く。そのころ、キューバの科学者が「16年前にクローン人間を作った」と発表する。そして、ヴォルフガングもクローン騒動の渦に巻き込まれてゆく……

親の敷いたレールに疑問を抱く若者、というジュヴナイル向けのまっとうなテーマを、クローン人間という素材を使って描いている。

主人公が思いを寄せる女の子は、腕っぷしも強い優等生とつきあっている。そんな彼女が、少々引っ込み思案の変な奴である主人公のほうを振り向いてくれる、という実にありがたい展開も待ち受けている。このへん、想定される読者層にあわせたような気がする。

ところで『イエスのビデオ』ではソニー製品を異常なまでに堅牢にしてしまった作者だが、今回も少々無茶をしている。もっとも、ほぼ全編を世間知らずの15歳の少年の視点で統一しているので、無茶もうまく包み込まれてはいる。

伏線があからさまではあるけれど、まずまずまっとうに楽しめる娯楽作品。

揺籃の星

SF
上巻下巻ジェイムズ・P・ホーガン / 創元SF文庫

ちょっぴりいかがわしいけど、このワクワク感が懐かしい。

プロローグや、土星の衛星で妙なものが発見されるあたりは『星を継ぐもの』を、地球の外に理想郷を築いたクロニア人の描写は『断絶への航海』を連想させる。

トンデモ理論を下敷きにした大風呂敷の広げっぷりが楽しい。登場人物が討論を重ねる『星を継ぐもの』に比べると、可能性をほのめかすだけのことが多いので、論証の説得力ではやや劣るのだけれど。

同じくトンデモ話を扱った山本弘『神は沈黙せず』を読んだときに物足りなかったのが、作中で広げられる大風呂敷が、主人公たちの物語と微妙に噛み合っていなかったところだ。でも、この作品は大丈夫。あやしげな宇宙論から導かれるのは、地球規模の大災害だ。

かくして大風呂敷を広げる上巻に続く下巻は、災害パニック小説と化す。サービス精神あふれる娯楽作品だ。

三部作の第一部という本書はほんとうに序章のような感じ。続く2作で、このビリヤード台みたいな太陽系に何を巻き起こすのか楽しみだ。