■[読了]神の血脈 / 伊藤致雄
第6回小松左京賞受賞作。
遠い昔、異星人に特殊な能力を与えられた一族がいた。時は幕末。一族の子孫・風之助は、老中・阿部正弘や若き勝海舟、あるいはペリーといった人々に干渉し、幕末の日本を密かに動かしてゆく……。
端整なできばえの時代小説。ただ、その端整さゆえに、伝奇小説としてはこぢんまりとした印象が残る。異星人の力を得た風之助の超人ぶりは鮮やかで、物語も五千年におよぶ広がりを持ってはいるのだから、もっと羽目を外してもよかったのでは。
ほか、ちょっと気になったのは、風之助の言動。幕末の人間なのに妙に現代人らしさが感じられる。そういう人物だからと言ってしまえばそれまでだが、単に現代を先取りするのではなく、幕末とも現代とも異質な精神性のほうが印象深かっただろう。
結末の意外性は巧くできているけれど、強烈な伏線があるとさらに良かったと思う。
……と文句が多いけれど、この端整さゆえに読みやすく、奇異な物語にスムーズに入り込むことができた。
■[読了]神のはらわた / ブリジット・オベール
相変わらずの暴走悪酔いドライヴである。痛そうな格好で犯行に臨む猟奇殺人鬼「缶切りパパ」と、そいつを追うコート・ダジュールの警察の物語だ。
……が、ブリジット・オベールであるからして、ストレートな警察小説/サイコ・スリラーへと向かうことはまったくない。
捜査を率いるジャノー警部はセクハラおじさん。美女のローラには悪い霊が憑いている(後述)。研修にやってきたローランはMacとFBIのマニア。ジャノーの上司、マルティニ警視はミステリ新人賞の応募原稿を執筆中(まだ1行しか書いていない)。結局いちばん役に立つのは、刑事になることを夢見る一介の巡査、マルセル・ブランだったりする。
この脱力を呼ぶ面々が殺人鬼を追う。残虐さとブラックユーモアと間抜けぶりが同居した独特のドライヴ感は、あなたの脳をよれよれにすることだろう。
たとえば、登場人物が映画を見に行くと……
彼らはハリウッド映画の超大作を見てきたのだ。超巨大なタコの話だ。そのタコの超かわいい子供が超おバカな科学者に誘拐され、巡航客船に乗せられた。それでタコは超憤慨してその客船のあとをつけ、船を沈めて愛する赤ちゃんを取り戻そうとしていた。
……という超クールなことになってしまう。
ちなみに、前作『死の仕立屋』に登場した連続殺人鬼が、地獄に堕ちることもかなわないままローラの脳内に巣喰っている。でも何もできずに悪態をついているだけ。こんなのがシリーズのレギュラー登場人物だったりするのがオベールです。
本書最大の脱力シーンはエピローグ。何やってんだよ!!