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撃て、そして叫べ

ノワール
ISBN:4062731517ダグラス・E・ウィンター / 講談社文庫

主人公は銃器の密売人。大きな取引のためにワシントンDCへ向かった彼を待ち受けていたのは、裏切りと策謀、そして銃撃の嵐。ひょんなことから行動を共にすることになった相棒と一緒に、彼を陥れた奴らに復讐するのだ……

予断を許さない、しかし落ち着くべきところに落ち着くストーリー展開に、シニカルな語り口。簡潔にして深みのある人物描写。悪党ながらも、どこか古典的なヒーローを思わせる主人公。派手な銃撃シーンが次から次へと繰り広げられる、ストレートな犯罪小説だ。

銃撃描写の根底には、「銃のあるアメリカ」が抱える闇が潜んでいる。終盤近く、主人公が突き止めた策謀の背景を見るがいい。そこにあるのは、「政府の奴らが何かを企んでいる」と語る陰謀マニアが夢見るような、ゆがんだ執念だ。

ちなみに、作者はスティーヴン・キングの評論なども書いているホラー評論家。『死霊たちの宴』などのアンソロジーにも、スプラッタ色の濃いの短編を寄せている。80~90年代に栄えた、スプラッタパンク派の一人といえるかもしれない。

従来のホラーと違い、スプラッタ映画からの影響を受けてフィジカルな暴力に焦点を当てたのがスプラッタパンクだ。実際、スプラッタパンクに分類されるホラーの多くは、超自然的な描写を取り去ってしまえば、ノワールとして読むことも不可能ではない。最近、スプラッタパンクに属するとされた作家たちが次々と犯罪小説を発表しているが、それは決して意外なことではないのだ。

……と、これは読み終えた頃の感想。
最近、あるメーリングリストで、原書を読んだ方々が、邦訳との違いを指摘していた。
  • 原文では、会話文に“ ”を使わず、地の文と同じようになっている
  • 原文はすべて現在形
一般的な形で訳したほうが読みやすいだろうという配慮かもしれない。でも、こういう特殊な形式はなるべく再現して訳してほしかったなあ。同じく会話に“ ”を使っていないという「終わりのないブルーズ」では、邦訳でもカギカッコを使っていなかったことだし。

(2002/3/27追記)

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