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彼岸の奴隷

ノワール
ISBN:4048732951小川勝己 / 角川書店 (→角川文庫

セックス、バイオレンス&カニバリズム。これはそういう作品だ。

登場人物のほとんどが、どこか壊れてブレーキが効かなくなっている。まっとうなキャラクターと思えた刑事が実はかなりの食わせ者で、暴力衝動の塊みたいな悪徳刑事が意外とまっとうな思考回路を持っていたりするのは序の口だ(とはいえ、やっぱりまっとうな人間ではない)。内面も含めて、題名どおり彼岸の世界に行ってしまった人間が登場人物の大半を占めている。

いきなり強烈な印象を残すのは、暴力団幹部の八木澤。嬉々として残虐行為に精を出し、言うとおりにならなかった女の手足を切り落としてその肉を食べるにいたっては、まさしく彼岸の人である。……ただし、もっと歪んだ印象を残す登場人物は他にもいる。激烈な異常行為を表に出さないだけのこと。

帯には、馳星周の「すべてが歪んだ物語の先に見えるものは--もちろん現実だ」という言葉が踊っている。でも、前述の八木澤をはじめ、極端にカリカチュアライズされた人々が入り乱れる物語のどこがリアルなのか?

 それは、おそらく作者が妙な自制をしていないところにあるのだと思う。タブーを踏み越えてでも、書こうとしたことを書いている。そのスタンスは、ジャンルこそ異なるけれど、スプラッタパンクに通じるものがある。

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地下室の箱

ホラー
ISBN:4594031463ジャック・ケッチャム / 扶桑社ミステリー

 「私は、この本から生きる勇気をもらいました」なんて帯のついてる本はなんとなく嫌いだ。「全米を感動の渦に」とか「癒し」とかも同様。どこかうさんくささを感じてしまう。
 そんなの読むくらいならやっぱりケッチャムでしょう。……と思って手にとったのがこの本。

 妻子ある男と関係を持ち、妊娠したサラは、お腹の子を中絶するために産科の医師をたずねる。しかしその途上、彼女は謎の男女に捕われて、地下室に監禁されてしまったのだ。男女の目的は何か? 虐待を受けるサラの運命は……? という内容である。

 拉致/監禁/虐待。そう、これはまぎれもなく天下の鬼畜本『隣の家の少女』と同系の作品だ。あの作品の後味の悪さは半端じゃなかった。でも、この本は違う。逆境の中で、人格崩壊を起こしかけながらも力強さを見せるヒロインの姿は前向きだ。
 読後感も実にポジティヴな鬼畜小説である。私は、この本から生きる勇気をもらいました。……うーん、まずい徴候だなあ。

 ちなみに、サラを監禁する男が抱くいびつな信仰心もさることながら、男がサラに語る『組織』をめぐる陰謀めいた話も、一部のアメリカ人が抱くオブセッションを象徴しているかのようだ。この『組織』をめぐる物語がサラを内面から束縛してしまうという展開は、理不尽な世界になんらかの解釈を与えてくれる「物語」というものの危険な魅力を表している。

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