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2006年1月の日記

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フェアリー・フェラーの神技

小説
ASIN:4894490315マーク・チャドボーン / 木村京子訳 / バベル・プレス

2003年度の英国幻想文学大賞短編部門受賞作。そう、短編ひとつで本一冊なのだ。この本の表紙を飾る絵画“Fairy feller's master stroke”に憑かれた男の物語である。

狂気の画家が描いた一枚の絵。その絵に魅せられた少年は、早熟の天才。成長した彼は酒とドラッグに溺れるろくでなしに。そして彼は、自分を虜にした絵の作者が歩んだ道をたどる旅に出る。いつしか彼は、精神のバランスを失い、自分とダッドを同一視する……。

人生を棒に振ってしまいそうなくらいにのめりこめる作品。そんなものに出会ったことがあるだろうか? 幸か不幸か、私にはない。大いに笑ったり、心を揺さぶられたり、考え方に影響を受けたり……そういうものはたくさんある。でも、人生を棒に振ってしまいそうなくらいの作品となると、ちょっと思い浮かばない。

それは幸福なことなのか、それとも不幸なことなのか。

いくつもの新作を読む。年間ベスト級の作品もあれば、そんなに大したことのないものもある。傑作でも水準作でもそれぞれに応じた楽しみを得ている。そんな生活を送っている。

たまに思うことがある。「究極の一冊」に出会ってしまったらどうなるんだろう、と*1

あまり幸せそうだとは思えない。本書の主人公だって、苦難の道のりを歩んでいる。ノワールに登場する男が、ファム・ファタールとともに堕ちてゆくように。

もっとも、本書の主人公には救済が与えられている。凡庸な着地点という救済が。それがこの小説の長所でもあり、短所でもある。多くの人にとって受け入れやすいけれど、一線を越えた凄みを感じさせるにはいたらない。いい作品ではあるけれど。

美術に関するサイトを調べてみると、この絵の題名は「お伽の樵の入神の一撃」と訳されるのが一般的らしい。でも、訳者が選んだタイトルは「フェアリー・フェラーの神技」。

クイーンII 訳者はクイーンの大ファンらしい。彼らの二枚目のアルバムに、“Fairy feller's master stroke”──邦題は「フェアリー・フェラーの神技」という曲が収められているのだ。

クイーンのアルバムでも、全体のまとまりのよさではトップクラスの一枚。このアルバムもまた、入神の一撃である。

ちなみに、この絵を描いた画家リチャード・ダッドについては、Arts at Dorianに詳しい。

*1 : 戦場に赴く若者が『黒死館殺人事件』だけを携えて出征した、というエピソードを思い出す。

2006/01/05(木) ちょいと風邪気味

日常

ミステリマガジン原稿

なんとか終わりましたよ。

[]地を穿つ魔 / ブライアン・ラムレイ

いやあ楽しい。ホラーなんだから“恐怖”とか“戦慄の”とかいう言葉でもって表すのが本来のありかただろうけど、こいつを読んでいて最初に感じるのは楽しさだ。

根っからのクトゥルー神話好きが、「ぼくの考えた邪神」が大暴れする物語を夢想し、この現実社会を怪奇と妄想のワンダーランドに組み替えてゆくのだ。楽しくないはずがない。

幼い子供が、さまざまな色や形のブロックを組み合わせて「ぼくの考えた乗り物」を組み立てるのに似ている。ブロックの代わりに使うのは、「忌まわしい地底都市」や「狂えるアラブ人が記した禁断の書」や「封印された太古の邪神」だったりするけれど。

そんなラムレイのワクワクしているさまが行間から伝わってきて、とても怖がっている場合ではありません。こちらも驚喜しながら読んでいる。

[]フェアリー・フェラーの神技 / マーク・チャドボーン

いい小説だった。「フェアリー・フェラーの神技」を参照。

2006/01/04(水) 今日から出勤

日常

仕事始めだけど

今日はまだまだのんびり。

森博嗣氏と同じ高校

……だった、ということを今日はじめて知った(Wikipediaの東海中学校・高等学校より)。

同じ高校のミステリ作家といえば、大沢在昌氏もそうだ。大沢氏と同じ高校、というのは私も在学中に知っていた。『新宿鮫』が人気を集め出したころ、ある先生が国語の授業中に、ふと「そういえば昔の教え子が作家になって……」とこの本の話をしていたのだ。

ISBN:4334724434

そう、『新宿鮫』はそれなりの進学校で、現代国語の授業にて言及された小説である。このことは覚えておくといい。

ちなみに、昨年の総選挙直後に覚醒剤で捕まった衆議院議員も同じ高校。いけない薬にうつつを抜かす政治家というと、大沢在昌よりはむしろ大藪春彦の本に出てきそうだ。もっともあまり格上ではなく、出番はせいぜい前半まで。復讐に燃える主人公の処刑リストでは、かなり始めのほうに載っている名前だ。本人は厳重な守りのもとにいるつもりでも、主人公はそれをいとも簡単にくぐり抜けて彼のもとにやってくる。凄惨なやり方で痛めつけられて失禁。聞き出したいことを聞き終えたら、主人公はあっさり彼の命を絶って復讐を完遂。その後も彼の存在を置き去りにしてヴァイオレントな復讐劇が繰り広げられ、主人公の行く手には死体の山が積み上がる。憎悪のマエストロ・大藪が放つ禍々しい熱気は、時代を超えて読者の心に暗い炎を燃え上がらせる。大藪を知らぬ若者たちよ、この衝撃に心を震わせるがいい。偉大なり大藪。

で、何の話だっけ。

2006/01/03(火)

日常

オライリー表紙

 オライリーというコンピュータ関連の技術書を出してる出版社がある。そこの本はたいてい表紙が動物で、レイアウトも一定していて、表紙を見ればオライリーの本と一目で分かるようになっている。

 そのオライリー風のブックカバー画像を作れるページがあったので、いろいろ遊んでいた。

http://www.monkeyboy.is-a-geek.org/oracover.jsp

 いつのまにか手元の動物写真をレタッチして表紙部分に貼り付けたり。mixi経由でこちらを読まれている方は、mixiでの私の写真が変わったことに気づかれたかと思う。

ミステリマガジン原稿

……遊んでる場合ではないのでした。会社の休みは今日までなのに。

それにしてもほんと休み最終日の小学生みたいだな。

[]13のショック / リチャード・マシスン

 そんなときこそ実に魅惑的に楽しく読めてしまう。短編集を選んでいるのはせめてもの自制心のあらわれで、これが『地を穿つ魔』だったりした日には原稿が間に合わないことは間違いない。

 こういうすぐれた短編って、オチを知って再読してもなおスリリングなのですね。構築美というか、語り口のなせる技だろう。

2006/01/02(月)

日常

[]廃墟ホテル / デイヴィッド・マレル

ホラーだったかどうかは書かないでおこう。

廃墟探検に出かけた一行が体験する恐怖の一夜を描いた小説である。閉鎖されて、まもなく取り壊される予定のホテルに潜入した男女。だが、そこにいたのは一行だけではなかった……。

平板に見えた登場人物の表情が、徐々に浮かび上がってくるドラマが素晴らしい。閉鎖空間での緊張、ホテルの抱えた因縁と惨劇、そして一行が遭遇する暴力と恐怖。それらが絡まり合うクライマックスは実に鮮やか。

ミステリマガジン新刊評用読書はこれにて終了。

そんなわけで

ミステリマガジン新刊評の原稿を書いている。

[]13のショック / リチャード・マシスン

ISBN:4152086823

異色作家短編集。原稿の合間の軽い現実逃避に。

改めて読むとけっこう怖い。「陰謀者の群れ」なんて、陰謀小説的観点からも興味深い作品だ。