ようこそゲストさん

Bookstack

メッセージ欄

2006年1月の日記

一覧で表示する

13のショック

小説
ASIN:4152086823リチャード・マシスン / 吉田誠一訳 / 早川書房

異色作家短編集第4巻。『地球最後の男』で知られる作家の短編集。

収録作品

ノアの子孫

ニューイングランドの閉鎖的な町……というとつい「インスマスの影」を思い浮かべてしまう。対象は似ていても、恐怖の質感はそれぞれでずいぶん違うのだけれど。

レミング

無常感漂う渾身の一発芸。

最近書かれたもの、といっても通用しそうなくらいにテーマが現代的。短いながらも密度の濃い衝撃作。デビュー作の「モンスター誕生」とも通じ合うところがあるように感じた。

長距離電話

こういう展開でこういう終わり方かな、と読めてしまってもひきこまれてしまうのは、やはり演出方法の妙だろう。

人生モンタージュ

映画「チーム・アメリカ」の劇中、主人公の特訓シーンのBGM、“モンタージュの歌”を思い出した。

天衣無縫

ふつうのおじさんが突然知識の泉に。「アルジャーノンに花束を」をどす黒くしたような。

休日の男

「見えてしまう男」の苦悩。『フラッシュフォワード』あたりを思い浮かべた。

死者のダンス

本筋はさておき、「未来の退廃的な文化」のレトロ・フューチャーぶりが印象深い。

陰謀者の群れ

わずかなページにまとまった理想的な陰謀小説。パラノイアックな焦燥感は何度読んでも鮮烈。

次元断層

話の傾向は全然違うけど、恒川光太郎「夜市」を連想した。

忍び寄る恐怖

全米がロサンゼルス化する恐怖を描いたバカ話。「西海岸の人間」に対するステレオタイプなイメージは、どうやらアメリカ国内においても通用するらしい。

ある人曰く「東海岸の人と仕事していると、まじめに品質の良し悪しとかを話すんだけど、西海岸の人はすぐに"cool!"とか言い出すんだよねえ……」。でも西海岸の人は、こちらが仕事をがんばると、お礼にカリフォルニアワインを贈ってくれたりするのでcoolです。おいしかったよ。

死の宇宙船

これまた、語り方で成り立っている作品。アイデアストーリーではあるが、何度読んでも楽しめる。

種子まく男

こちらも陰謀小説的観点から見て興味深い作品。ご町内に不和をまき散らす男の内面が一切語られないところがポイントだろう。

2006/01/08(日)

日常

推理作家協会賞短編部門

予選のため短編をパラパラ読んでいる。

[]喉切り隊長 / ジョン・ディクスン・カー

臆面もなく面白い。ディクスン・カーの大仰なスタイルって、二〇世紀を舞台にした作品では笑いのタネだが、過去の時代を舞台にした作品では輝きを帯びて見えるから不思議だ。

二〇世紀には失われてしまった古めかしいロマンと冒険。ディクスン・カーは間違って二〇世紀に生まれてしまった男なのかもしれない。でも、数々の快作や怪作を楽しめるのは、彼が生まれる時代を間違ってくれたおかげである。

[]奇妙な情熱にかられて / 春日武彦

ISBN:4087203204

予想どおりの面白さ。今読んでいるのはミニチュア篇だが、自宅の精巧な模型を作った友人の思い出とか、俳句を二文字にまで切りつめる話とか、楽しいエピソードが満載である。

以下は著者がアルバイト先の病院で見かけたもの。

ふと棚におかしなものが置いてあるのが目に入った。一部を斜めに削り取った細長い木片で、古くて全体が煤けたような色になっている。しかも表面には、下手くそな文字がマジックインキで書いてある。「私を捨てないで下さい」と。

「捨てないで」と訴えかける奇怪な木片。だが、この木片には合理的な用途が存在し、書かれた文字にもちゃんと存在意義があったのだ!

……お、エラリー・クイーンの話が出てきた。

[]悲劇週間 / 矢作俊彦

明治45年、外交官の父に呼ばれてメキシコに旅立った若き日の堀口大學の物語……だそうだ。ちなみに私にとっての堀口大學といえば、新潮文庫のルパン傑作選である。

ISBN:4163246401

[]金春屋ゴメス / 西條奈加

第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。まだ読んでなかったことを思い出して購入。

ISBN:4103003111

[]獣の夢 / 中井拓志

デビュー作『レフトハンド』はすさまじく変だったけど、その後はまともな娯楽小説を書いている人の第四作。

ISBN:4043464045

地を穿つ魔

ホラー
ブライアン・ラムレイ / 夏来健次訳 / 創元推理文庫

ヨーロッパ各地で相次ぐ群発地震。ある嵐の夜、北海に浮かぶ大戸島を謎の災害が襲った。島に赴いた調査団の前に現れた巨大生物。それは、禁断の文献にのみ伝えられる、かつて地の底に封じられたはずの旧支配者シャッド-メルだった。シャッド-メルはやがてロンドンに上陸し、都市を破壊する。天才科学者タイタス・クロウ(平田昭彦)は、禁断の知識でシャッド-メルの息の根を止めようと、自ら地の底へ向かう。断末魔のシャッド-メル。静まりかえった穴の底を見て、ミスカトニック大学のピースリー教授(志村喬)は「あのシャッド=メルが最後の一匹だとは思えない……」と呟く。

……大戸島とか言い出したあたりから不正確な紹介になってしまったが、ともあれ非常に怪獣映画らしさあふれるお話だった。いつメーサー殺獣光線車が出てきてもおかしくない。

本書は根っからのクトゥルー神話好きが贈る、「ぼくの考えた邪神」が大暴れする物語である。そして、人類のために戦うひみつ結社、ウィルマース・ファウンデーションが邪神と死闘を繰り広げる物語でもある。

旧支配者や彼らに仕える種族といった神話作品の重要な構成要素を、CCD(Cthulhu Cycle Deities;クトゥルー眷属邪神群)という略語で表してしまうところに、この物語の姿勢がはっきり示されている。「忌まわしく名状しがたい」と長々と形容するのではない。畏怖の対象ではなく、効率が支配する領域での調査と研究の対象なのだ。

神秘性をはぎ取ってしまうような描き方は、たしかに「恐怖」を感じさせることはない。しかしラムレイは、そうすることによって「楽しさ」を持ち込んだのだ。先人たちが築いたクトゥルー神話作品の構成要素を組み合わせて、新たな物語を作り出す「遊び」の楽しさ。作者が感じたであろう、そのわくわくするような快楽が、行間から立ち上っている。

さらに、人類を守る秘密組織が密かに邪神と戦っているという設定を導入することによって、陰謀小説らしい色合いも帯びている。そもそもこの分野、ラヴクラフトの「インスマウスの影」や朝松健の『邪神帝国』などに見られるように、陰謀小説的世界観との親和性が強いのだ。

「いいから文章書くのやめて逃げろ」と言いたくなるような形で終わる手記。禁じられた文献からの引用。われわれの常識からかけ離れた奇怪な異種族。そんな手垢にまみれたクトゥルー神話的小道具を組み合わせて作られた、怪奇と妄想のテーマパーク──それがこの作品である。

怪獣総進撃ちなみに、本書のクライマックスとも言うべき第13章「シャッド-メル追撃」のBGMには、『怪獣総進撃』のテーマがよく似合う。
機会があったらお試しください。
  • タイタス・クロウの帰還 Bookstack 古山裕樹
    ブライアン・ラムレイ (著), 夏来 健次 (翻訳) 『地を穿つ魔』の続編。前作の結末から十年。邪神の襲撃に遭い、行方不明となっていたド・マリニーが半死半生で発見された。彼の心に響くのは、離ればなれになったタイタス・クロウの助けを求める声。その声に応えるド...
  • 幻夢の時計 Bookstack 古山裕樹
    ブライアン・ラムレイ (著), 夏来 健次 (翻訳) 『地を穿つ魔』『タイタス・クロウの帰還』に続く第三作。解説を書きました。東京創元社ではホラーに分類しているけれど、これは明らかにヒロイック・ファンタジーと呼ぶべきものである(まあ、どちらにしても帆船マ...

2006/01/07(土)

日常

[]13のショック / リチャード・マシスン

せっかくなので全編再読しましたよ。→「13のショック

休日なので

出かけて寿司屋に行ってお酒飲んで浮かれて買い物して帰ってきました。

[][]チェコのマッチラベル / 南陀楼綾繁

ISBN:489444447X

1950年代から60年代にチェコスで印刷されたマッチラベルを集めて並べた本。シンプルで分かりやすくデザインされた絵が、小さな面積の中に配置されている。

社会主義国ならではの宣伝が目立つけれど、その絵柄は眺めていて飽きない。

[]幻のロシア絵本1920-30年代

ISBN:4473031667

革命直後、ロシア・アヴァンギャルドの芸術家たちが取り組んだ絵本作り。やがて、社会主義リアリズムだけが国家公認の芸術様式と定められ、その黄金時代は幕を閉じる。だが、その成果は日本で収拾されていた──。

そんなわけで、これも絵が中心の本。

[]喉切り隊長 / ジョン・ディクスン・カー

ISBN:4150703620

ついカーが読みたくなって読み直し始めた。カーなら何でもよかった。今も反省はしていない。

読みかけリスト

http://bookstack.jp/ にだいたい同等の内容があるので、リンクをはずしました。

2006/01/06(金)

日常

[]地を穿つ魔 / ブライアン・ラムレイ

いやあ楽しかった。topicsの「地を穿つ魔」をごらんください。

[]奇妙な情熱にかられて / 春日武彦

副題は「ミニチュア・境界線・贋物・蒐集」。

ISBN:4087203204

本書は、ミニチュア愛好、境界線へのこだわり、贋物への欲望、蒐集といった、きわめて個人的に見えるが、実は普遍的で、世間一般には「論ずるに足る」とは思われていないような心の働きについて論じるものである。

それで思い浮かべたのが、エドワード・ケアリーの小説である。

ISBN:4167661829

ISBN:4163234705

他人の思い出の品を収拾する男や、自分の暮らす街の模型を作ることに専念する双子の姉妹。いびつな、しかしきわめて魅力的な人々の姿が心に残る小説だ。そう、あの主人公たちも「奇妙な情熱にかられて」いたのだ。

幼かったわたしは、田舎に住んでいた。父は保健所に勤めていた。ある農家では、精神の発達が遅れた子供を裏庭の檻に閉じ込めていた。プロパンガスが爆発して、一家全員が焼け死んだ蕎麦屋があった。

てなところから語りだし、幼児期に感じた橋の穴への恐怖を回想するのが冒頭。これはぜひ読まないと。