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M.G.H. 楽園の鏡像

ミステリ
M.G.H. 楽園の鏡像 三雲岳斗 / 徳間デュアル文庫

某原稿のために再読。

時は近未来、舞台は宇宙ステーション。被害者は、どうやって無重力空間で墜落死したのか──という謎を軸に展開される物語。

この手のミステリには珍しく、解決シーンにたどり着く前にトリックが分かってしまった。もっとも、そのせいで評価が下がるなんてことはなく、「それをやりたかったのか!」と嬉しくなってしまった記憶がある。大がかりな舞台装置でありながら、仕掛けは単純そのもの。こういう稚気をみせられると、少々の傷は気にならなくなる。

また、主人公の男女が宇宙ステーションにやってくる経緯(新婚夫婦向けの宇宙ステーション無料招待を手にするためにとりあえず結婚してみた)が、ある種のミスディレクションになっているところも好印象。

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残虐行為記録保管所

陰謀小説
残虐行為記録保管所 チャールズ・ストロス / 早川書房

 アラン・チューリングが開拓した数学的魔術。その禁断の知識がもたらす災厄を阻止すべく、英国政府は密かに情報機関〈ランドリー〉を設立した。本書は、〈ランドリー〉の新米エージェントであるボブ・ハワードが、魔術を操るナチの残党なんぞを相手に奮闘する物語である。
 もっとも、ハワードは新米。ジェイムズ・ボンドみたいなスーパーヒーローではない。組織の末端であり、英国政府のお役所体質やイヤな上司に悩まされながら任務を遂行することになる。
 基盤はレン・デイトンのスパイ小説。そこにクトゥルー神話の要素を取り入れて……となると、どうにも重々しい物語を想像しがちだ。だが、作者はここにもうひとつの要素を付け加えてみせる。
 あろうことか、モンティ・パイソンなのだ。
「〈第三種栄光の手〉、五回の使い切り、汎用の不可視化ではなく鏡面ベースによるコヒーレント放射……」
(中略)
「それをこしらえるためには山西省で死刑を執行しなければならないことは知っているか?」
 ぼくは吐き気を催しながら手をおろす。「指を一本使っただけですよ。それはそうと、業者はオランウータンを使ってたはずです。いったいどうしたんですか?」
 ハリーは肩をすくめる。「悪いのは動物の権利保護団体さ」
また、クトゥルー神話ならではの芸当──本来まったく無関係だったものを勝手に自らの体系に取り入れてしまう様子も堪能できる。
「あれってクヌースじゃない?」(中略)「ちょっと待ってよ──第四巻? だけど、あのシリーズはまだ第三巻までしか完成してないはずじゃないの! 第四巻は、刊行がもう二十年も遅れてるのよ!」
刊行が遅れたのは、第四巻に禁断の知識が記されていたからだそうな。高度に発達した科学は魔法と区別できない、というのはこのことだったのか。

……こんなふうに、あちこちに作者のお遊びが仕掛けられた愉快なスパイ小説である。冷戦時代のスパイ小説を、核兵器による絶滅の恐怖に基づいたホラーとして認識する作者のあとがきも興味深い。クトゥルー神話とエスピオナージュを結びつける発想はよくあるものだけれど、両者の共通点を意識していることを明確にしているのは珍しい。

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