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ボトムズ

ミステリ
ISBN:415208376Xジョー・R・ランズデール/早川書房

 スティーヴン・キングの『スタンド・バイ・ミー』、ロバート・R・マキャモンの『少年時代』のような、語り手が少年時代に遭遇した事件を回想するという形式の物語。もっとも、その図式は『スタンド・バイ・ミー』や『少年時代』のそれとは大きく異なる。

 特に、作者と語り手の重なり合う部分が比較的少ないのは、比較されるであろう類書との大きな違いである。ほかの本だと、作者が回想という行為に我を忘れているところがあるのだが(で、それが長所だったりするのだが)、ランズデールは追憶の世界に生きる老いた語り手の様子をも描いてしまう。

 マキャモンに特に顕著な、ノスタルジーの全面肯定に伴う気恥ずかしさ。そのベタベタな甘さこそが『少年時代』なんかの良さなわけだが、『ボトムズ』の良さは、ノスタルジーとの距離のとり方にあるのではないか。老いた語り手を描く無慈悲な筆致は、誠実さの現われでもある。

 甘さの排除という点は、作中に描かれる怪異にも現れている。怪物ゴート・マンの扱いは、例えば『少年時代』の川の怪物オールド・モーゼスのそれとは大きく異なる。ゴート・マンは、あくまでも「人間たちの領域の外側」の森に棲む怪物であり、恐怖の対象である。オールド・モーゼスのような、「共同体の風変わりな一員」にはなりえない存在だ。「自分たちが支配していない領域に抱く恐怖」というのは、未知の大陸への進入によって成立したアメリカの、ひとつの原風景かもしれない。

 メインの連続殺人事件も、1930年代のアメリカ南部という背景に包むことによって独特の色を帯びている。……ただし、事件そのものはあまりにオーソドックスなので、ミステリとしては添え物にあたる部分──治安官レッドの運命や、ゴートマンをめぐる物語のほうがむしろ印象に残る。

 なにやら賞を受賞したせいか、ランズデールの代表作みたいに言われることもあるけれど、個人的には「テキサス・ナイトランナーズ」や「バットマン/サンダーバードの恐怖」みたいな暴虐路線も好みである。

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