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凶獣リヴァイアサン

冒険小説
上巻下巻ジェイムズ・バイロン・ハギンズ / 創元SF文庫

ゴジラ対バイキング。ひとことで言えばそういう話である(バイキング対地底怪獣、というのがより適切かも)。

舞台はアイスランド沖の孤島に広がる地下洞。とある企業が、アメリカ軍の援助のもと極秘プロジェクトを進めていた。彼らが開発していたのは究極の生物学的抑止力、その名もリヴァイアサン。コモドオオトカゲの遺伝子を改造して作られた身長10メートルの怪物は、開発者たちの予想を超える能力を秘めていた。自力で身体能力を進化させてゆく怪物はついに暴走し、研究者たちを、兵士たちを餌食にしてゆく。そして、怪物の暴走に備えて用意されていた核自爆装置が起動した。残された時間は24時間。苦境に立たされたスタッフたちの前に、身長2メートルを越すノルウェー人の大男が現れた。古風な信念を抱き、島のはずれで暮らしていたトールだ。彼の斧は怪物を打ち倒せるのか……?

という、たいへんストレートにわかりやすいお話。

読み終えて

 大変満足である。

 ほとんど洞窟の中だけでで展開される物語は、「怪獣と人間たちとの死闘」に的を絞っている。余分な要素はほとんど削られていて、たとえばこの手の話につきものの怪獣の誕生秘話なんてのも必要最低限にとどめられている。

 もっとも本書の元ネタは、いわゆる怪獣映画のたぐいではなさそうだ。斧を構えた大男が巨大な怪物に立ち向かう──ファンタジーなんぞではおなじみの、英雄の竜退治物語というやつだ。

 なにしろクライマックスでは、この大男が怪獣相手に一対一で勝負してしまう。戦車をも打ち負かしてしまう怪獣に、だ。これはもう、リアルな軍事考証を積み重ねたシミュレーションというよりも、英雄の物語としか言いようがない。

 いちおう、怪獣が現代の世界で暴れるための理屈付けはなされている。でも、この作品の場合、そのへんはわりとどうでもよかったりする(正直なところ、少々いいかげんでもある。そもそもアメリカ軍は「怪獣の軍事利用」なんて奇策に頼る必要はないだろう)。

 いわゆる怪獣映画的な描写との最大の違いは、これが「生身の人間と怪獣との戦い」を正面切って描いているところだろう。本書の登場人物は、戦車や戦闘機や、果てはメカなんとかとかスーパーなんとかみたいな超兵器に頼ることはない。グレネード・ランチャーを抱えて駆け回り、あちこちに高圧電流を流し、罠を仕掛け、血と汗にまみれながら怪獣に立ち向かうのだ。

 怪獣との一進一退の駆け引きが生み出す緊張感。

 仕掛けた罠に怪獣を追い詰めてゆくときの高揚感。

 怪獣の異常な生命力に対峙した人々の絶望感。

 作者が妙に倫理的なことも手伝って、設定こそ荒唐無稽だが実に熱い物語に仕上がっている。そういえば、今まで訳されたハギンズの作品も、似たようなムードがあったように思う(怪物退治というモチーフも似通っているけど)。

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